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測定結果の表し方

はじめに
 
 実験では1つの量を少しずつ変化させ、これによって決まる量を測定して得た結果から2つの量の間の関係を調べ、両者の間の関係を一目瞭然にするにはグラフにプロットして幾何学的に表現することである。その後、このグラフの形状から、さらに、片対数や両対数にプロットしたりして数式を予想し、数式により、両者の関係を定量的に表すことになる。こうすることによって2つの量の関係が明確になる。
 最近は、表計算ソフトを使い、パソコン上でグラフ等を作製することがほとんどで、手書きのグラフなど作成しないが、グラフを作成する基本的な知識は必要であると感じている。
 パソコンがまだ普及していない頃,学生実験や計測工学のノートから抜粋したものを紹介する。
 
2.1 グラフに表す方法
 
  2つの量を両軸に取り、測定値を表す点を方眼紙にプロットする。そしてそれらの点の関係を最もよく適合する直線や曲線を引く。
 縦軸と横軸の目盛りの取り方であるが、理想的には、測定値の有効数字の最後の桁の1が方眼紙の1目になるように選ぶべきである。しかし実際の場合は不可能な場合が多いが、有効数字全部を表現できるように心がけるべきである。
 測定値を表すマークは小さいと見にくいので、○や×のマークも大きさは、1.5mm〜2mm程度が適切とされている。これ以下にすると、論文が雑誌などに印刷されるとき、縮小されるのが普通であるので見にくくなってしまう。学会誌などで発表されている論文の図面を見習って学習した方がよい。
 
グラフを描くときの注意点
(1) 横軸、縦軸の数値の最大値、最小値を参考にして、目盛りの大きさ、間隔などを決める。目盛りの数値は等間隔に取る。
(2) プロットのマークは、○や●を選び、マークの大きさは、1.5mm〜2mm程度
(3) 線や曲線を引くときはマークのデータの平均位置を通るように定規、雲形定規、自在定規などを用いて引く。
(4) 縦軸と横軸の名称、変数名、括弧の中に単位を必ず記載する。縦軸の描く方向に注意
(5) その他
細線と太線を使い分けることにより、見やすいメリハリのきいたグラフとなる。
手書きで描かなければならないときは、マークや数字はテンプレートを使う。
目盛数値文字と軸名称文字の大きさを変えると見やすくなる。
 

 
図1 グラフの描き方
 
対数目盛について
 対数の値は、log1=0、log2=0.3010、log3=0.4771、log5=0.6990、log10=1、log100=log102 =2log10=2、log1000=log103=3であるので、対数目盛と実際の長さは図のようになっている。従って、対数目盛の数値のところに点を取れば、常用対数の値になっている。
 下の図では、対数 log 10 = 1を長さ100mmに対応させて表している。

 

  
 log5はA点の位置に点を取れば、log5=0.6990になる。B点は log40 である。片対数は縦軸、横軸の目盛り方がどちらか一方が対数目盛であり、両軸とも対数軸の場合は両対数と言っている。 プロットした結果、点が直線になれば、(6)式の指数関係が成り立つことになる。
 

 


両対数用紙目盛りの例
2.2 直線 y = ax + bの場合
 
方眼紙にプロットして、点を縫う平均の曲線が直線ならば、測定値x , y は
 
         y = ax + b                   (1)

の関係にある。係数、a, b は定数で、bは図2でy軸と交わる点(0,y0)で b = y0 である。
aは直線上の1点の座標(x1,y1) を読み、
                     (2)                     
から得られる。ばらつきがある場合、透明な定規で線の両側に点が平均的に分布するようにあてがい、線を引く。
 

図2
   表1 作動トランスの変位と出力電流
 
 表1は、変位の測定に用いる作動トランスの変位x(mm)に対する出力電流I(mA)の関係で、測定値をプロットすると直線が得られた(図3)。
 
            I = ax + b                   (3)
 
として、直線上の(I,x)の2点を与えて、a,b の方程式を作り、係数a, b を決定する。図3の場合、作図した直線上の2点を読み、式(3)に代入し、a,bに関する方程式を作り、これを解いて、 a、bの値を得る。
    

 
図3 変位計の出力電流Iと変位xの関係
 
ΣΔ法 それほどの精密さを必要としない場合
 
 
測定値が8個ずつあるので、これを4個ずつの2群に分ける。表1のxとIの和
 
     
 
 を計算する。
            
次に、2群との差を取り、bを消去する。
 
   y2 - y1 = a(x2-x1)    ∴ a = ( y2 - y1)/(x2-x1)       (4)

 
 
 a = 0.785が得られる。次にxの総和にaを掛けて、積をI の総和から引けば、差は8bになる。
b = 12.02が得られる。従って、Iとxの関係式は
 
         I = 0.7896x + 12.02                   (5)
 

をうる。結局、点@〜Cの4点とD〜Gの4てんのそれぞれ平均点を通る直線の式を決定したことになる。簡単な割には精度が良く係数を決定することができる。
 
2.3 放物線と双曲線
 
 
プロットした点が
       y = axn                        (6)

 
で表されるとき、両辺の対数を取り

       log y =log a + n log x                 (7)

 
log y =Y, log a= A, log x=Xとおくと

       Y = nX + A                      (8)

となり、直線になる。2つの量の間の関係が、常用対数を取ったとき直線的な関係にあるとき前式が当てはまる。両対数グラフ用紙にプロットすると直線が得られる。
 nが正ならば、一般に放物線型、負なら双曲線型となる。式(8)に,ΣΔ法やx,yを対数に変えてから後に述べる最小二乗法を適用すればn,Aを求めてから、n,aが得られる。
 
【例1】 疲労き裂伝播速度と応力拡大係数の関係
ΔK: 応力拡大係数 Stress intensity factor
σa:応力振幅,A,m:材料定数
図4 疲労き裂伝播速度と応力拡大係数の関係
 
 【例2】 繰り返し応力−ひずみの関係

σo : 材料定数
        β: 繰り返しひずみ硬化指数 Cyclic strain hardening factor

図5 繰り返し応力−ひずみの関係
       β=0.212 ,定数σo=92.9 ,SS400
指数関数の場合
 自然現象には次の式で表されるものが多い。
     
この場合も両辺の対数をとり
     
次のように置き換える。
     
yを対数に、片対数グラフ用紙にプロットすると直線になる。
     
 他の関数の場合と同様に、A,Bを決定する。次に述べる最小二乗法で求めても良い。
 
2.4 最小二乗法により2つの量の関係式を求める方法について
前掲の出力電流Iと変位xのデータの関係が

          I = ax + b                     (9)

の一次式で表されるとし、n個の変位、x1,x2, ----, xn に対して電流Iの測定値が、I1, I2, ----, In であったときに、最適な定数、a, b を決定するために最小二乗法を適用する。
 式(9)にそれぞれのデータを代入する。
       (10)
 式(10)を観測方程式という。 式(10)は未知数はa, b2つで、方程式はn個であるので満足するa, bは存在しない。変位xIにも実際は誤差がはいるが、ここでは誤差がないものとして、電流I1, I2, ----, In の 誤差を、それぞれ、z1, z2, ----, zn とすると
 
             (11)
が得られる。
a, b の値は未知であるので、 a, bを変数として、誤差の二乗の和S
       (12)
 
を最小になるように決定するのが最小二乗法の考え方である。Sが最小の時、Sをaとbで微分した値が0であるので次式が成り立つ
 
                  (13)
式(12)をaとbで微分すると
     (14)
   (15)
更に式(15)変形すると、
        (16)
となる。
更に式(16)変形すると、
(17)
       (18)
(19)(20)
式(19)と式(20)はa, b に関する連立方程式であるからこれを解くと
        (21)
が得られる。
式(21)の右辺の値をExcelで求め、代入すると

 *上の表でI2の項目は必要ありません。最新のExcelは使用したことがありませんが、上記表の値を計算して、下の数式に代入した方がVBAを使うより簡単で良いと思います。
 Excelの計算に不慣れな方はこちらを参考にして下さい。VBAによる最小二乗法のマクロ処理例はこちらを参考にしてください。
 
               a = 0.7960, b = 12.01
が得られる。
 現在はExcelを使うとa, b の計算は簡単にできる。さらに,VBAによるマクロ処理を行えば,マウス・ワンクリックで計算が可能になる。
 
塑性ひずみ幅△εpと寿命Nの関係
 塑性変形をするような繰り返しのひずみ幅△ε(ひずみ振幅の2倍)と破断寿命Nの間には次式が成り立つことが知られている。
        △ε・Nα=C                 (22)
     
疲労試験の結果、表3に示すデータが得られた。
表3
式(22)の両辺の対数を取ると、
 

 
とおくと
 
        
                E = - αN + b

となり、直線の式となる。そこで、αとCを決定するために最小二乗法を適用する。

表4
*有効数字は考慮していない

logC=b であるから C = 100.298 =1.986 となり、関係式は
 
                 △ε・N0.5917= 1.986 
となる。
 
応力振幅σaと破断繰返し数Nfの関係 S-N曲線 --- 片対数グラフ用紙で直線になる例
 S-N曲線の形状は種々の式が提案されている。図6は、片対数グラフ用紙にプロットした場合であるが、直線となることから、
  
 で表される。
    
このx,yの式に最小二乗法を適用する。

図6 AS,PMMA(アクリル)との複合材のS−N曲線
*図6は以前便利なソフトがあり、目盛りも指数で書き込むことが出来たが、Excelでは不可能であったので、グラフには目盛りの文字を入れないでPowerPoint に図としてコピーし、パワーポイントの文字で目盛りを入力している。イラストレーターでは可能である。