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数学と力学の基礎知識   微分法と積分法

このページは、「はじめての材料力学」(小山信次、鈴木幸三著、森北出版)を学ぶための基礎的事項について解説したものです

2 微分法

 微分法も科学における現象を説明する方法として必須の方法である。今,自宅から駅まで行くことを考える。距離はs kmとする。途中,最初はゆっくり歩いて,あるところから時間がないので走ったとする。所要時間はt分であった。自宅から駅までの平均速度は,s/t [km/分]となるが,歩いていたときの速度,走っていたときの速度ははっきりしない。そこで、ある時刻における瞬間的な速度を求めようとするのが微分の考え方で,このことを次に述べる。

 直線運動をしている物体があり,運動を開始後,時刻tと位置xを計測し,位置と時間の関係が,x=f(t)の関係が得られた。横軸に時間t,縦軸に位置xをとると図 4のようにグラフで表せるとする。グラフ上に,A(t,x)点,時刻tからΔt時間後の位置P(t+Δt,x+Δx)点をとる。この時,Aの位置から距離Δxだけ進んだことになる。AP間の平均速度Vは
                      (5)
である。Δtの間隔を更に小さくし,P1 → P2 のようにとって平均速度を求めてみる。グラフ上では,P点は A点に近づいてゆく。この時,極限の考え方を適用して,Δt →0としてみる。  
                    (6)
Vは,瞬間の速度であり,この値を速度と定義する。

(a)時間Δt後、位置はΔx変化

(b)PがAに近づくとAPはAM に接近する
    図 4 Δtを0に近づけたら、平均速度と傾きは
 図4(b)から 直線APの傾きは,Δt →0の極限を考えるとA点における曲線の接線AMに近づくことが理解できる。

 つぎに,一般の関数y=F(x)で,この極限値を求めてみる。
 図5で、次の式で定義される値をxがaからa+h変わるときのf(x)の平均変化率と言う.時間t、距離x=f(t)における、時間tからt+Δtの間の平均速度に相当する.
                         (7)
図 5 一般の関数y=f(x)での変化の様子

 f(x)の平均変化率において、hが限りなく0に近づくとき、その極限値を関数y=f(x)のx=aにおける微分係数,または変化率と言い、f'(a)で表す。
                     (8)
 微分係数f'(a)は,図において、P点を限りなくA点に近づけると(h→0)、APは、A点におけるy=f(x)の接線に近づく様子が分かる。従って、極限値はf'(a)は、A点におけるy=f(x)の接線の傾きとなる。
図 6
a→x,h→Δxと置き換えて、
                      (9)

 f'(x)を関数f(x)の導関数という。Xの関数f(x)から、f'(x)を求めることを、

           
関数f(x)をxについて微分する

と言う。

 y=f(x)=x2の場合の計算をしてみる。
        (10)
 f(x)=x3,x4・・・・・・, xnの場合の計算をしてみると、次の法則がある.
                 (11)

 従って、いちいち極限値を計算する必要が無くなる。他の関数についても、すでに計算されており、よく使うもの(例えば、三角関数、指数関数など)だけを覚え、複雑な場合は、積分と同様、数学公式集を活用すればよい。
  
3 積分法について

 積分法は、理系の分野においては、必須の知識である。いわゆる積分公式は、知っているのに越したことはないが、必要な場合は、公式集(例えば、岩波書店,数学公式T,U,V)を利用すればよい。単に積分した結果を得るこに習熟するよりも、積分によって何が得られ、積分の考え方を理系の問題で適用する際、積分はどういう意味を持つのか、基本的なことを理解することが、工学等の問題を解く際に、あるいは、教科書等の数式の物理的な意味を理解するために必要である。ここでは、材料力学中で出てくる断面2次モーメントを求めるときの積分の基礎として、積分の定義である区分求積法の説明と積分の基本的な力学への応用について述べる。

◆定積分について

 関数y=f(x)で表される曲線と直線x=a,x=b,x軸で囲まれる領域(図 7(a)の斜線部)の面積Aを求めることを考える。図7(b)のように、曲線の下に、同じ幅の長方形を作る。この2つの長方形の面積の和と曲線で囲まれる面積Aは、図中の三角形に見える空白の部分だけ差がある。さらに、図7(c)のように、4つに等分割すると4つの長方形の面積の和と面積Aの差は、図7(b)の場合よりも小さくなる。このことから、さらに細かく等分割し(極限値の考え方)、長方形の面積の総和をとれば、面積Aに限りなく近づくと考えられる。

 次に、このことを数式を用いて説明する。区間[a,b]をn等分し、図8のようにn個の長方形の面積の和Sを求めることを考える。当然、真の面積AとSは図中の三角形に見える部分の和だけ差がある。
(a) 斜線の面積A (b).2分割 (c).4分割
図7  斜線部の面積と長方形の和
(a).下側にある長方形の面積の総和 (b).上側にある長方形の面積の和
図 8

 区間の幅h=(b-a)/n、長方形の高さyはxの位置では y=f(x)の関係がある。
(12)
*ここに出てくるnに関する式は高校数学「数列」を参照して下さい

 具体的に、 y=f(x)=x のとき、i番目の長方形の面積Aiは
     (13)

となる。けっきょく、長方形の面積の総和Sは
  (14)

となる。上式の右辺の記号Σは、左辺の長たらしい式を記号で表したもので、ギリシャ文字Σは、英語のSであり、「合計(summation)」の意味である。
 下式の整数の和の公式を利用し、y=f(x)=x のときの値を求めてみる。
  (15)  

 Aの右辺を項目毎に和を求めると次のように計算される。
     
     
        
と、計算される。

 定積分の結果,面積Aは,a=5,b=10のとき, A=292が得られる。一方、長方形の面積の和は
        n=10のとき,  S=273
        n=20のとき,  S=282
        n=100のとき、 S=290
となり,nが大きくなるとAに近づくこと、この程度のnの値でも長方形の面積の和の値は面積Aにかなり近いことが分かる。

 区間の幅を細かくすれば(n→大)、曲線の下の面積Aと長方形の面積の和Sの差は小さくなり、SはAに近づくことは図と計算例より理解できる。別の言い方をすると,区間の幅を限りなく0に近づける(h→0)。すなわち、n→∞のSの極限値を求めることに相当する。n→∞のとき1/n→0であることを適用し、
 (16)
が計算される。

 F(x)を次のように置くと
                         (17)
 Sの極限値の結果は、式(18)のようになっている。
                  (18)

 また、F(x)とf(x)の関係は、式(19)のようになっている。
                     (19)

   F(x)は微分するとf(x)になる関数である

  図 8のS’の場合も結果は、計算してみると次のようになる。
   (20)
                   (21)
 S’,S,Aの図8(a),(b)における大小関係から、S'<A<Sなるはずである。SとS’の極限値が等しいのであるから、面積Aは

                
 A=F(b)−F(a)                    (22)
となる。

 結論として、「長方形の和を求め、極限値を計算する」面倒な手順をとる必要はなく、

 
「微分したらf(x)になるような関数F(x)を求め、区間の両端のF(x)の値の差をとれば求める面積Aが計算される。」

この計算手順を記号で表し
                               (23)
と決める。積分記号である。

 17世紀のドイツの数学者、ライプニッツが提案した記号で、ドイツ語のズマチオン(Summation,合計)の頭文字、Sから発展した記号である。「xの位置に小さな長方形(幅dx,高さf(x))の面積(f(x)・dx)を求め、次に,他のxについても同様に,長方形の面積を求め,曲線とx=a,x=bとx軸で囲まれた範囲ですべての長方形の面積の和を求め、この値の極限値をとること」を意味する。

 y=f(x)=x2 の例では、幅dx=h,高さxi2 で,小さな長方形の面積はxi2dx,そして、dxを限りなく小さくしたとき、長方形の面積の総和は面積Aに一致する。

 y=f(x)=x2 の例では、計算結果は、次式となる。
                         (24)
 f(x)=x2 の時は、微分したらf(x)になる関数F(x)は,F(x)=x3/3であり、
                         (25)
となっている。

 積分した結果の関数の形を求めるテクニックよりも,今まで述べたような方法から積分は生まれたので,この意味を理解することが重要である。工学の基本的な問題はここから出発していることが多い。

  ◆積分の応用

 前述の例では、x軸,y軸とも、長さ[例えば、mm]の単位として、y=f(x)で表される。グラフとx=a,x=bで囲まれる部分は  [縦軸の量]×[横軸の量]=面積[mm2]であると考えた。

 図9のように、縦軸,力F[N],横軸,伸びx[mm]とする。Fとxの間には、バネの場合、フックの法則 F=kxが成り立つ。


図 9 バネに働く力と伸びの関係
 図 9のx,x2の区間を積分した結果は、
                 (26)
となる。単位を見てみると

       [縦軸の量 力 N]×[横軸の量 伸び mm]= [仕事量 N・mm]  ( 27)

であり、仕事量、エネルギーの単位である。定積分の結果として、力F=kxが働いた結果、xからx2までバネがのびたとき,外力Fがバネに与えた仕事量,あるいは,バネの内部にひずみエネルギー(詳細については後述)の形で蓄えられた仕事量となる。

 このように、定積分で得られる結果である,図の面積が何を表す量かは、f(x)とxの物理量で決まってくる。逆に、いろいろな量を与えると、種々の[縦軸の量]×[横軸の量]が得られることになる。このことが工学の分野で様々な量を求めるとき,定積分,不定積分が応用される理由である。縦軸の量(長さmm)で横軸の量(長さmm)であれば、積分の結果はmm2となり、面積を表すことになる。

◆ 微小部分の考え方
 工学では、しばしば微小部分dxをとり、この部分の状態の考察から,積分を行って全体の状態量を求める場合が多い。微小部分dxは極限の状態における幅であり、ほとんど0と考えて良い。積分の定義において,nを∞大としたときの長方形の幅hに相当する。

 はりに作用している単位長さ当たりの荷重がP=f(x)で,距離xとともに大きさが変化する(不等分布荷重)場合に、A点回りのモーメントを求める。1点に作用する力(集中荷重)の場合は,(距離)×(力)で簡単に求めることができるが、分布荷重の場合は,単純に計算できない。

 そこで、A点からxの位置に,微小部分dxを図のようにとり、この部分に作用している力の分布状態を調べる。実際は、微小部分dxには,図10のように分布する荷重が作用するが、dxは非常に小さいので(極限の考え方),この範囲では力は一定で,P=f(x)であるとする。こうすることによって小さい部分dxに作用する力の合計は,f(x)dxとなり,f(x)dxは集中荷重と同じと考えて,モーメントは,(距離)×(力)=x・f(x)dxと計算される。

 積分の定義においては,微小部分dxは、h=(b-a)/n に相当し、x・f(x)dxは,Ai に相当する。その後,他のxについてもdxをとり,モーメントを計算し(積分の定義においては,A1,A2,A2,・・・・・,An,を計算することに相当)、すべての和を求めて,極限値をとること,つまりはり全体にわたって積分すれば計算できる。こうすることによって、不等分布荷重によるモーメントの総和が計算される。

 微小部分dx考えることによって,極限の定義を使かい、変化する量(力f(x))と他の値(距離x)をかけた量を簡単に計算することが出来る。
        
     

                     図10

 微小部分dxは、積分の定義におけるh=(b-a)/n に相当し、これをもとに、Ai を求めていることに相当し,その後,他のxについてもdxをとり,すべての位置における微小部分に作用する力のモーメントの和を計算していることになる。

【例1】 仕事量を求める場合

 大きさが変化しない一定な力Foが物体に働いた結果、sだけ力の方向に移動した場合,力Foが物体になした仕事Wは、
                  W=Fo
と定義されている。
図 11 一定の力Foが作用した結果、物体は力の方向に距離Sだけ移動

 これを積分法により求める。図 12(a)に示すように,力Foの作用で,微小距離dxだけ移動したときの仕事はFodxで,図 12(a)の斜線の部分の面積である。これを,0からsまで足し合わせて総和の極限値(この場合は,一定な力F=Foであるので,極限値もただの和も一致する)をとる。積分記号を用いて,
     (28)
と求めることができる。一定な力F=Fo距離x=s,x軸,y軸で囲まれる長方形の面積である。力一定の場合は,dxを小さくとっても大きくとっても結果は同じで,極限値を考える必要はなくなってくる。
(a) (b)
  図 12 F=Fo ,x=sと座標軸で囲まれた面積

 次に,力の大きさが,距離xとともに変化する場合について調べる。

 xの位置に、非常に小さい幅dxをとり、図 13の斜線の部分の面積(仕事量)を考える。「非常に小さい幅dx」とは、積分の考えで、dx→0の極限値,すなわち無限に小さい場合に、長方形の面積(kx・dx)は、斜線をした台形状の面積に限りなく近づくことを意味している。このような領域をとることを「xの位置に微小部分dxをとる」と言う。
(a) 伸びxからさらに微小伸びdxを与える (b) dxが非常に小さいとき,台形の面積と長方形の面積はほぼ等しいとする考え方
図 13 バネを伸ばした場合の仕事量

 微小部分の面積,仕事量dE=kx・dxと求まる。伸び0から、x1まで伸ばしたときに必要な仕事量E(グラフでは三角形PQOの面積)は、0からx1までの微小部分の和すなわち積分を用いて
                    (29)
と計算することができる。

【例2】モーメントの計算


 長さlのはりに、単位長さ当たり、wの大きさの等分布荷重が作用する場合に、A点に関するモーメントを求める。Aからxの位置に微小部分dx,この微小部分dxに作用する荷重は、dP=wdx,この荷重によるA点に関するモーメントdMAは、
                  dMA=dP・x=wxdx             ( 30)

となり、0からlまでの微小部分のモーメントの和すなわちMA
                    (31)
 
と計算できる。前例では力の大きさが距離とともに変化するので積分を用いたが、この例では、モーメントの値がA点からの距離xによって変化するので、単純に(力)×(距離)では計算できない。その代わり,微小部分dxでは,非常に小さいのでモーメントはこのdxの範囲では,一定と考えている。微小部分のモーメントを0からlまで足し合わせることによりA点の周りのモーメントが計算される。
図 14 長さlのはりに作用する等分布荷重によるA点に関するモーメントの計算

     【例3】円の面積の計算

 次の例は,円の面積を求める積分の例である。すでに,分かっているように,半径Rの円の面積は,πR2である。円の面積を積分の考え方で計算してみる。図 15の中心からrの距離にある幅drの円環状の微小部分の面積dAをとる。

「幅drは,極限の考え方で,非常に小さいので,斜線部の内側と外側の円  周の長さを比較すると,無視できるほど小さく,等しいと考えて良い」。

この部分を切り出すと「幅2πr,高さdrの長方形」と考えることができる。これが微小部分の考え方である。そこで,この微小面積を,rを0から,d/2まで変えて,それぞれのr位置で微小面積を計算し,全部足し合わせる。積分の記号でこのことを表し計算すると次式となる。
               (32)
     
(a) 

(b)
図 15 円の面積を求める

 試しに,リング状の面積と長方形の面積を比較してみる。

    r=30mm,dr=0.01mmのとき,リング状の面積は1.8850mm2 ,
    長方形の面積は、2πr×dr=1.8853 mm2

となり,差は0.0003mm2 である。さらに,drを小さくするとほとんど同じ面積と考えて良いことがわかる。
 
■数学公式集
 一般の教科書に出ていない関数の不定積分などほとんどの関数の不定積分が掲載されています。
  「岩波 数学公式T 微分積分・平面曲線 」、森口, 一松, 宇田川 著、岩波書店
 材料力学、弾性論以外の専門には
  「岩波 数学公式U 級数・フーリエ解析」、森口, 一松, 宇田川 著、岩波書店
  「岩波 数学公式V 特殊函数 」、森口, 一松, 宇田川 著 、岩波書店
 
研究する場合には持っていると便利です。