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酸環境の影響


  疲労試験に先立って,3.5%HCl水溶液中におけるガラス繊維の腐食の状況を調べた.Eガラスの長繊維(直径11μm)を3.5%HCl水溶液中に入れ,24時間毎に一定量を取り出し,SEM観察した.図に示すように,24時間後,J.N.Price らの結果と同様ならせん状の表面き裂が観察された.時間の経過とともに,腐食が進行し,繊維の一部が欠落する.彼らは,ガラス中のCaとAlが酸中にイオンとなって溶け出し,分子容の変化が生じた結果,表面層と酸に犯されていない繊維中心部間に応力分布が発生し,き裂が生ずると述べている.酸による応力腐食割れである.らせん状のき裂は,フィラメントから集束器により,ストランド(50〜4000本のフィラメント)を生成する際に生ずるよれや残留応力が影響していると思われる。

3.5%HCl水溶液中におけるガラス繊維の腐食
腐食時間,24Hr 腐食時間,48Hr
腐食時間,72Hr 腐食時間,96Hr
 

3.5%HCl水溶液中における疲労破壊  AS材の場合
 

  主疲労き裂先端がガラス短繊維(SGF:short glass fiber)に達すると,SGFは酸により犯され,この部分の収縮が生じ,さらに,SGFにはピットとき裂が生成される.タイプA,A’の場合は,収縮により界面破壊が生じ,主き裂は界面に沿って進展する.界面破壊したSGF部が酸により犯され,ピットとき裂が生成,やがてSGFが破壊する.この場合は,界面破壊した領域に接しているSGF部に発生するピット数は,次に述べるタイプBと比較すると多く,き裂発生点近傍は段差の多い破面となる.また,破面には,界面破壊した部分,すなわち,繊維の一部が突き出すか繊維が引き抜けた痕跡が残る.タイプBの場合は,主き裂先端がSGFに達したとき,その箇所で界面破壊より,ピットやき裂の発生が優先的に生じた結果,主き裂は容易にガラス繊維を横断して進展した結果と思われる.したがって,マトリックスと繊維の破面は,段差がほとんど生じないものとなる.
 一般には,主き裂がSGFに達するとき裂は一時的に停止し,き裂伝播に対する抵抗となるが,酸環境中ではSGFの強度劣化により,き裂伝播に対する抵抗は小さいものとなり,結果的に疲労寿命は低下する.

Fig.1 3.5%HCl水溶液中におけるAS材のS−N曲線  Fig.2 表面近傍のSGFの剥離から疲労き裂が成長、AS材,
σa=30MPa,Wf =1%,3.5%HCl水溶液中


Fig.3 拡大写真 Fig4 拡大写真
Fig.5 表面近傍のSGFの剥離とき裂 Fig.6 疲労き裂成長の模式図
Fig.7 疲労き裂成長の模式図 Fig.8 疲労破面,AS材,Wf =1%,3.5%HCl水溶液中,σa=30MPa
 Fig.9 ガラス繊維の破壊の様相,AS材,σa=15MPa,
Wf =1%,3.5%HCl水溶液中
 Fig10 典型的な応力腐食割れによるガラス繊維の破面,
AS材,σa=25MPa,Wf =1%,3.5%HCl水溶液中
 Fig.11 き裂発生点近傍が複雑な形態を示すガラス繊維の破面,AS材,σa=25MPa,Wf =1%,3.5%HCl水溶液中  Fig.12 ガラス繊維の破面とマトリックスの破面が同一平面上にある場合,AS材,σa=15MPa,Wf =1%,3.5%HCl水溶液中

(a)タイプ A,A'
(b)タイプ B
Fig.13 酸環境中での AS材のき裂伝播機構の模式図
    

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