ステンレス鋼について | |
■ | ステンレス鋼とは |
「ステンレス(stainless)」はさびないという意味を示します。正式名称はステンレス鋼(stainless steel)になります。鋼(steel)は「はがね」の和名がありますが、鉄と少量(0.2%以下)の炭素の合金を意味します。ステンレス鋼は高合金特殊鋼の分類に入り、鋼に多量のクロムCrやニッケルNi等を加えた特殊な合金と言うことになります。 最初、鉄とクロムの合金として1912年頃、さびにくい鋼として登場しました。同じ頃、これにニッケルを加えたステンレス鋼も登場しました。現在は改良が加えられ、表1のような代表的な種類のステンレス鋼があります。ステンレス鋼はクロムを約13%以上加えたもので種類が非常に多くあります。いろいろな合金元素の量により、一層さびにくい、強い、溶接しやすい、摩耗しにくいなどの特徴が生まれます。 クロム系のステンレス鋼は色のつやが黒光りして磁石につきますが、クロム-ニッケル 系のステンレス鋼(18-8ステンレス鋼)はオーステナイト組織のため磁石につかない。銀色が強く、クロム系より耐食性は一層強く、値段も高い。台所の流しや、時計のベルトが 18-8ステンレス鋼で作られています。 |
|
表1 ステンレス鋼の種類1) |
|
■ | ステンレス鋼の種類 |
(1) フェライト系ステンレス鋼 一般に、0.15%以下の炭素とクロム量は13%または18%合金した鋼が主として使用されている。組織はフェライト結晶の地に細かいクロム・カーバイド散らばったものです。加工しやすく、板、間、棒、鍛造品など家庭用器具、化学工業その他にも広く使用されています。 (2) オーステナイト系ステンレス鋼 フェライト系ステンレス鋼では耐食性(腐食に耐える性質)や高温での強度に対して不十分である場合は、高クロム鋼に多量のニッケルNiを合金したオーステナイト系ステンレス鋼が使用される。代表的な鋼が、18%Crと8%Niを合金した18-8ステンレス鋼です。家庭器具、建築、電気機械、航空機、車両、船舶、原子炉関係などに使用されています。組織はオーステナイトで、加工性に富み、板や線に簡単に加工することができます。フェライト系より、高温に強い。欠点としては特有の応力腐食割れ現象が起こります。、 (3) マルテンサイト系ステンレス 炭素0.20%〜0.5%、用途によっては1.2%の鋼に、高クロムを合金した鋼です。これを焼き入れ(950〜1050℃から急冷)によってマルテンサイト組織となり、これを焼き戻し(100〜400℃または650〜750℃)した鋼がマルテンサイト系ステンレスです。この鋼は、刃物、蒸気タービン翼、耐食性ベアリング、耐摩耗性を要求される化学工業用機械部品等に用いられます。他のステンレス鋼と比較すると応力腐食割れ現象が起こりません。イオウを含むガスや水溶液に対して耐食性が優れており、熱膨張係数が小さく、過熱冷却を繰り返す装置には適しています。 (4)強力ステンレス鋼 マルテンサイト系を除いて引張強さは500〜600MPa程度であるが、強力ステンレス鋼は1200〜1900MPa程度の引張強さを持っています。この強力ステンレス鋼は5つのタイプがあります。 @マルテンサイト形17-4PH鋼 17%Cr,4%Ni,4%Cu,PHは析出硬化の意味 A半オーステナイト形17-7PH鋼 17%Cr,7%Ni,1.5%Al Bオーステナイト形 17-10P Cオーステナイト+フェライト形 V2B鋼 D冷間加工形(代表的なアネロン鋼) @〜Cは時効処理により、Dは冷間加工により高強度を得ている。超音速ジェット機やロケットに主として使用されている。 |
|
■ | 何故さびにくいのか |
ステンレス鋼は、そのものが錆びにくいのではなく、表面に薄い耐食性を持つ膜(不動態皮膜、酸化皮膜、錆の薄い膜)があるからです。図1に示すように、不動態皮膜の(Fe,Ni)CrO4 の結晶とステンレス鋼の格子間隔が極めて近く、被膜が密着しやすい状態にあります。厚さは数オングストローム程度で透明ですが、腐食性の環境から守ってくれる役割をするため腐食しにくくなります。 |
|
図1 18-8ステンレス鋼1) |
|
■ | ステンレス鋼の泣きどころ |
不動態皮膜の生成が不完全であったり、不動態皮膜が破壊され、何もなければ酸化し修復されますが、何かの原因で修復されないときにはその箇所の耐食性はなくなります。ステンレス鋼自体にも弱点があります。ステンレス鋼の問題と応力の存在の場合を考えます。腐食環境の影響については表に示しましたが、解説は多岐にわたりますので省略します。 |
|
(1)粒界腐食 18-8ステンレス鋼では結晶と結晶の境界、粒界腐食が起こります。これは、図2に示しますようにクロムの炭化物Cr23C6が粒界に析出し、このため、この近傍の領域のクロムの濃度が低下し、不動態被膜を形成しにくくなるために腐食が起こります。 |
|
図2 炭化物Cr23C6 の析出 |
|
(2)応力腐食割れ オーステナイト系ステンレス鋼のみに見られる現象です。環境中に塩素イオン等が存在する高温環境と外荷重による応力や残留応力の存在で起こりやすいものです。応力腐食割れについての詳細は別ページ「材料の強度と破壊」で解説)しています。応力腐食割れは腐食環境、材料、応力の3要素の存在で生じますが、いろいろな機構が提案されています。ステンレス鋼の応力腐食割れについては未解明な部分が多い。いずれにしても不動態被膜が破壊されることから腐食は開始すると考えられます。塩素イオンが存在する高温環境が不動態被膜を破壊する,あるいは,オーステナイトは面心立方構造のためすべり易いことや合金中の不純物の偏析,析出物の存在による応力集中によるすべり等で不動態被膜が破壊されると推測されます。 *環境の影響については、別ページ「SUS304ステンレス鋼の温泉水による腐食の原因について」を参照して下さい (3) クロム系ステンレス鋼のシグマ相析出 クロム系ステンレス鋼を高温度で使用しているとシグマ相(鉄とクロムの化合物)と言われる化合物が析出し、この物質が ステンレス鋼をもろくさせます。 フェライト系ステンレス鋼のような高クロム鋼を450〜550℃に長時間加熱後冷却すると著しくぜい化し耐食性も劣化します。この現象を475℃もろさと言います。450〜550℃で過熱冷却を繰り返す装置に使う場合は注意が必要です。 (4) 孔食 pit 全面腐食は、腐食環境にさらされている材料が一様に板厚を減少させる現象を言いますが、腐食が局部的に生じ,深さ方向に腐食が進行した場合に生ずる腐食孔を孔食という。不動態被膜で覆われたステンレス鋼の場合,1箇所でもこれが破壊された場合,集中的に腐食を受け孔食が発生しやすい。防食用の塗料の場合も同様です。 不動態被膜の厚さ不足の箇所,隙間,腐食液の滞留,酸素または塩素イオンの存在で生じやすいことが知られています。塩素イオンは不動態被膜に吸着し,不動態被膜の弱い箇所を破壊すると言われています。 孔食底の応力集中によるすべりの発生,新生面の生成、腐食などで孔食はますます成長します。 また,孔食は, (1)と(2)の腐食が局部的に生じたものも含まれます。腐食現象は腐食環境と材料、あるいは応力の存在で生じますのでメカニズムは複雑です。 |
|
■ | さいごに クロム系のステンレス鋼は色のつやが黒光りして磁石につきますが、クロム-ニッケル 系のステンレス鋼(18-8ステンレス鋼)はオーステナイト組織のため磁石につかない。銀色が強く、クロム系より耐食性は一層強く、値段も高い。台所の流しや、時計のベルトが 18-8ステンレス鋼で作られています。 更に勉強したい方は参考文献をご覧下さい |
ステンレス鋼と腐食環境2) |
|
参考文献 1) 100万人の金属学 材料編,三島良積,アグネ(1980) 2) 金属の腐食損傷と防食技術,小若正倫,アグネ(1983). |