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3.相律と二元系状態図
 
3.1 相,成分及び相律
a.相(phase)  物質の“すがた” , 気相,液層,固相

  「1つの系において他の部分と明らかに境界を持って区切られ,それ自身の中では均質である部分」
            
 ・水と油の混合  二層に分かれる,境界は明らか 異なった液相共存
 ・合金の場合は,結晶構造の異なる固相が存在しうる

b.成分  Component
 
 1つの系を構成するもとになる物質 すべての元素,化合物
 
(1).それらの量を適当に変えることによって,その系のいずれの相の組成を表しうる
(2).1つの成分の量の変化は,他の成分の量とは独立に存在しうる
 
Ex.1 食塩水の場合  
 水(H2O)と食塩(NaCl)の量は自由に変えられる。 独立成分 H,O,Na,Clは勝手に変えられない
 
Ex.2 合金(炭素鋼 FeとCの合金)の場合
 
 ・元素そのものが独立成分   ・ FeとCの化合物も独立成分  
 
C.相律 phase rule
 
 ・平衡 equilibrium
  熱的な釣り合い、合金系に外から熱を加えず、また奪わない(断熱状態)で長く放置したときに似た状態
 
 ・相の数 r 個,
 ・自由に決められる変数は・・・・ 温度,圧力,各相の組成
 ・自由度f (freedom)  平衡関係を変えずに自由に変えうる変数の数
 
    f = n+2−r
 
 合金の平衡状態を律する法則,熱力学の理論

 ・f = 1を1変系,f = 2 を2変系,
 ・f = 0を不変系  一定温度,一定圧力下で相変化する
 ・圧力の影響は大気中では小さい, 変数が一つ減る
 
    f=n+2−r−1    →     f=n+1−r 凝縮系の相律
3.2 状態図の構成
 
・熱分析   状態図を求める基本的な方法  
 
 物質を高温から冷却しながら,一定時間毎に物質の温度を計測,その結果を横軸に時間縦軸に温度をとり関係曲線をグラフで表す
 
・合金の変態点では曲線に変化が表われる.変化がなければ曲線は滑らか
 
(a) 変態点無し (b) b-c間で温度一定,  曲線の形状変化
 
図1 温度の時間的変化
 
 
温度の時間的変化のグラフ(図1)
 
・配列状態の変化により,潜熱が発生,温度降下が遅れる
・純金属の場合の相律の適用  液相から固相に変態するとき、 成分数 n =1, 相の数r=2(液相,固相)
 
      ∴ f = n + 1 - r = 1+ 1-2 = 0

   自由度=0  温度一定  b−c間の現象

・加熱の場合は逆の現象
 
3.3 一元系(純金属)
 
・純金属を液相から冷却し,凝固させるときの変化の様子
 
(a).結晶の核が所々に発生   最初は単位胞  
 
(b). 樹枝状に結晶が成長
 
(c). 結晶化完了
 
 ◇結晶粒(grain) 
    粒内部では,格子の並び方同じ
 
 ◇多結晶 
  ・それぞれの結晶粒は結晶格子の並び方が違う.
  ・結晶粒境界に不純物が集まる

 ◇単結晶
   試料全体どこをとっても,結晶の並び方が同じ→
     材料の性質が均一
単結晶 多結晶
 
3.4 基本状態図T
 
■ H2O - NH4Clの場合(塩化アンモニュウム水溶液の冷却)
  金属の状態図を調べる前に、塩化アンモニュウム水溶液の冷却の場合の相変化を調べてみる。
 
9.1%NH4Cl水溶液(a)の場合 −6.6℃
 
 水溶液温度−6.6℃  水溶液に濁りが生ずる→水の結晶:氷
 
 NH4Cl水溶液 → 純粋な水の結晶:氷  ---- 初晶
 
  氷の量が大になるにつれ水溶液のNH4Cl濃度上昇,変態温度は下降


 
図1 塩化アンモニュウム水溶液の冷却
 

  
図2 水溶液温度−6.6℃
    
9.1%NH4Cl水溶液(a)の場合  -16℃  
 
 ・水溶液温度-16℃では水溶液濃度19.3%、
 ・NH4Cl水溶液  → 共晶の氷+NH4Clの結晶が同時に晶出
 ・共晶 水溶液が完全に変態完了するまで温度一定,-16℃
 ・変態完了後温度降下,変態完了後の相
    純粋な氷(初晶+共晶の氷) +NH4Clの結晶   初晶:−6.6℃で生成した結晶

 
 図3 9.1%NH4Cl水溶液温度-16℃
  
9.1%NH4Cl水溶液の固相組織
純粋な氷(初晶,-6.6℃) 純粋な氷(共晶,-16℃) NH4Clの結晶(共晶,-16℃)
  
 
19.3%NHCl水溶液(b)の場合  -16℃
 
  水溶液温度-16℃, NHCl水溶液→ 氷 + NHClの結晶
 
   2つの結晶が同時に晶出 共晶反応

 
 図4 19.3%NHCl水溶液温度、-16℃
 
19.3%NHCl水溶液の固相組織
純粋な氷(共晶,-16℃) NH4Clの結晶(共晶,-16℃)

 
23%NHCl水溶液の場合(c)  水溶液温度−0.5℃
 
 ・水溶液温度−0.5℃ NHClの結晶    NHCl水溶液→NHClの結晶  初晶

 NH4Clの結晶の量が大になるにつれ<<水溶液の濃度低下,変態温度は下降
 
 
 
 図5 23%NH4Cl水溶液温度−0.5℃
23%NHCl水溶液の場合(c)  水溶液温度-16℃,水溶液濃度19.3%
 
 NH4Cl水溶液 → 氷+NH4Clの結晶が同時に晶出
  
     共晶,水溶液が完全に変態完了するまで温度一定,-16℃

・変態完了 温度降下   純粋な氷+NH4Clの結晶(初晶+共晶)
 
 
 
 図6 23%NH4Cl水溶液温度-16℃
 
23%NHCl水溶液の固相組織
純粋な氷 NH4Clの結晶(初晶) NH4Clの結晶(共晶)
単一共晶系 状態図
 
 図7のように、横軸に濃度、縦軸に温度をとり、いろいろな濃度で、折点、停点を求め温度と濃度の関係曲線を求めると状態図が得られ、各領域における組織が判明する。
 金属の場合も同様に状態図を求めることができる。
 

 
図7 単一共晶系状態図
 

T:NH4Cl均一水溶液 U:氷+ :NH4Cl水溶液 V::NH4Cl水溶液+ :NH4Cllの結晶
 
■固相 界域Wの詳細 
界域Wの詳細
濃 度 領 域 反 応
<19.3% (Wa) 氷の初晶 + 共晶(氷の結晶+ :NH4Clの結晶)
19.3% (Wb) 共晶(氷の結晶 + :NH4Clの結晶)  共晶反応
19.3%< (Wc) :NH4Clの初晶 + 共晶(氷の結晶 + :NH4Clの結晶)

 
 AB,BC:初晶線、 B : 共晶点  BD : 共晶を生ずる温度
 
 *共晶反応  均一溶液 → 純粋な結晶A +純粋な結晶B

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