はじめに
1. シックハウス症候群とは
2. 室内化学物質汚染による健康被害の現状
3. 建材等から発生する有害化学物質
4. 室内化学物質汚染の対策の現状は
5. 室内化学物質汚染の対策は進んでいるか
6. シックハウス症候群対策
7. シックハウス問題解決の課題として
8. 賢い建て主・買い主とは
まとめ


はじめに

 建材から発生する化学物質は室内を汚染し、これが原因で生ずるシックハウス症候群が大きな社会問題となっています。現在、約500万人程度の患者がおり(H12.5.7 朝日新聞)、何らかの影響を受けている人は10人に1人はいると推定されています。米国では約25年前にシックビルディングとして問題となり、日本では約20年前から問題とされてきました。

 建材から発生する有害な化学物質に起因するシックハウス症候群は、新築された住宅やリフォームした住居に入居したときに生ずる頭痛、吐き気、めまいなどの症状がでる低濃度中毒症状であり、このほか、すでに存在する疾患に対して化学物質が悪化原因として作用する場合です。この中で最も深刻な化学物質過敏症は、頭痛、不眠、下痢、視力障害、めまい、筋肉痛、不整脈、皮膚炎、ぜん息などさまざまな器官に対する傷害として現れます。化学物質過敏症は,化学物質に大量もしくは微量に長期暴露したときに生ずる化学物質に対する過敏反応であり、生活をするためには周囲に存在する化学物質をすべて排除しなければならなくなり、外出も困難な状態になります。このような患者が約100万人いると推定されています。
 
1.シックハウス症候群とは
 
 1979年、デンマークのファンガー博士が「シックビル症候群」と言う症状を発表したことにシックハウス症候群問題は始まります。対象がオフィスビルであり、ここで働く事務員が化学物質汚染の被害にあったことから、「シックビル症候群」と言われました。
 1983年のWHO(世界保険機構)によるシックビル症候群の定義は以下の通りです。

@ 目、鼻、のどの刺激症状  A 粘膜の乾燥  B 皮膚の紅班、じんま疹、湿疹  C 疲労、疲れやすい   D 頭痛、風邪にかかりやすい  E 息が詰まる、ぜいぜいする  F いろいろな刺激に過敏に反応する
G めまい、吐き気、嘔吐

 シックハウス症候群は、住宅に起因する健康被害全般を指すが、大別すると次の項目に分類されます。

 (1).室内化学物質汚染による健康被害  (2).生物(カビ、ダニ、細菌)による健康被害
 (3).温熱環境による健康被害   (4).湿度環境による健康被害

ここでは、主として室内化学物質汚染による健康被害について述べます。

 
2.室内化学物質汚染による健康被害の現状
 
 建材から発生する種々の有害な化学物質は室内を汚染し、特に、新築された住宅やリフォームした住宅に入居したときに、頭痛、吐き気、めまいなどの症状がでる低濃度中毒を生じます。

 成人の平均的な飲食物は一日当たり2kg程度ですが、空気の場合は一日当たり、15〜20kgと言われており、1時間当たり6畳一間の容積の量を必要とすると言われています。従って、汚染された室内にいる限り、有害物質が継続的に体内に入ることになります。また、飲食物の場合は腸から肝臓を通り、血液に入る過程で有害物質はある程度除去可能であるが(除去機能を超えた食品添加物のような化学物質は体内に留まることになる)、空気の場合、有害物質は、肺から血液に入り、全身にまわることになります。従って、症状は全身にわたり生じます。特に、化学物質過敏症において、中枢神経に障害をもたらした場合は悲惨な症状となります。また、シャンプー、化粧品などに入っている化学物質も皮膚から血液へ入ることになり、空気の場合と同様に全身にまわることになります。

 室内化学物質汚染による健康被害として認識されている症例を示します。しかし、すべてが医学的に証明されている訳ではありません。例えば、新築した家から海外に数ヶ月間旅行するとアトピーが治ってしまい、家に帰り、再び生活をすると再びアトピーが発症することから、室内化学物質汚染による健康被害と認知される場合などが含まれます。医学的な因果関係が示されていないことが問題を深刻にしている。ホルモン異常、不妊精子減少、奇形流産などは、さらに深刻な問題です。症状の特徴は、 自覚しやすい症状と自覚しにくい症状、短期的症状と長期的症状があることです。特に、自覚しにくい症状の場合は対応策は遅れることになります。

 

 朝日新聞(2000.5.7)の記事から,その要約を紹介します。

 この記事の中では、認知度が低いことを指摘しています。TBSの調べ(2001.1.24)では国民の認知度9%と報告しています。このことが、問題が発生した場合、患者と工務店との間での問題解決を複雑にし、病気として医師に認知されていないことから、治療法も原因を除去するのではなく、対処療法的なものになります。また、化学物質と症例との因果関係が未だ未証明と記事の中で述べています。また、「医学界で認知されず」との見出しですが、ここ2、3年で地域によっては差はありますが、状況は変わりつつあります。シックハウス症候群の患者は全国で約500万人、化学物質過敏症100万人と推定されており、10人に1人の割合で室内環境汚染の何らかの影響を受けていると推定されています。記事の中で「因果関係が未証明と言うことで裁判では患者の主張が認められなかった」と述べていますが、現在では、シックハウス症候群に関する情報量が多くなり、状況はかなり変わってきました。

 住宅を建築する側は、今後、「予め予想できる危険性を防止する義務」、「危険と判断されたときの回避義務」を認識する必要があると思われます。
 

3.建材等から発生する有害化学物質
3.1 建材から発生する有害化学物質
(1) ホルムアルデヒド
 接着剤原料、接着剤の防腐剤などその他の様々な添加剤として広く使用されています。
(2) 溶剤 キシレン、トルエン、その他
 塗料、接着剤などの溶剤で、使用されている範囲は広く、壁紙からも検出される。いずれも揮発性有機化合物(VOC)に属する物質である。
(3) 可塑剤 フタル酸エステル、有機リン系薬剤
 可塑剤は、樹脂の柔軟性を得るために使用される物質で、特に壁紙等の塩化ビニル製品に多く使用される。毒性は強い
(4) 防虫剤・防蟻剤 有機リン系薬剤、ピレスロイド系薬剤、その他
 有機リン系薬剤が多いが、その毒性が指摘されたことからピレスロイド系薬剤が増えてきた。これも安全である根拠は乏しい。
(5) 防腐剤・防かび剤
 この薬剤は高温多湿な我が国においては,種々の建材に使用されており,最も多く使われているのが特徴である。また、最も厄介な問題は、メーカーから物質名が明らかにされていないことである。
(6) 難燃剤 有機リン系薬剤、ハロゲン系薬剤、その他
 この薬剤も木造建築が多い我が国特有の使われ方である。
(7) 樹脂モノマー
 樹脂、プラスチックの原料の単体である。樹脂はこの単体を反応させて作る。発ガン性の強い塩化ビニル、木工ボンドの酢酸ビニルも発ガン性が強い。樹脂モノマーに関する安全性のデータは少ない。
(8) その他 (1)から(7)には属さない、実際には安全性が問題となる化学物質を含む材料
 @ 木質系ボード 、A集成材、LVL、B壁紙、C内装用塗料、D左官材、Eその他の内装材、
 F断熱材、G現場施工接着剤、H無機質系ボード、I床下関連資材、J外壁材K 屋根材

 表2に建材に含まれる主な有害物質と人体への影響を示した。TVのコマーシャルなどにおいては、ノン・ホルムアルデヒド壁紙を強調していますが、壁紙には他の多くの有害物質がかなり含まれていることがわかます。
人体への影響については、以下すべていろいろな研究者が指摘しているものです。朝日新聞の記事のように、医学的に因果関係は完全には証明されていません。
 
表2 建材に含まれる主な有害物質と人体への影響
化学物質 使用されている建材 人体への影響(毒性・症状) 使用される薬剤名
ホルムアル デヒド 合板,壁紙,建材用接着剤,壁紙の接着剤 発ガン性,発ガン促進作用,アトピー,ぜん息,アレルギー ホルマリン
有機リン系化学物質 壁紙の難燃剤,シロアリ駆除剤,タタミの防ダニ剤,合板の防虫剤 発ガン性,麻酔作用、急性毒性,頭痛,全身倦怠感,発汗、下痢、筋萎縮、視力低下,神経毒性、 フェニトロチオン,リン酸トリクシル、燐酸トリエステル
有機溶剤 塗料,接着剤,シロアリ駆除剤,ビニールクロス 発ガン性,頭痛,めまい,吐き気,目・鼻・喉への刺激、吐き気、中枢神経系傷害,皮膚炎 酢酸ブチル,トルエン,キシレン,デカン,アセトン他
フタル酸化合物 壁紙の可塑剤,塗料 発ガン性,ホルモン異常,生殖異常,中枢神経系傷害,胃腸障害、細胞毒性、下痢、嘔吐 DOP,DBP,BBP
有機塩素化合物 ビニール壁紙の素材 脳腫瘍,肝臓ガン,肺ガン,乳ガン,リンパ腫 モノ塩化ビニール
合板の防虫剤,防腐処理木材 腫瘍,白血病,胎児の奇形,関節痛,肝臓障害、食欲不振、多量発汗、不眠倦怠感、関節病 ペンタクロロフェノール他
 
3.2 生活の中の化学物質


◆家の中に持ち込まれる化学物質 その1
@ 家具類
 合板やボードが使用されており、建材から発生する化学物質と同様です。特に、特に締め切った状態が多い、キッチンの戸棚、食器棚などは、20年経過後も0.75ppmのホルムアルデヒドが検出された場合もあります。選定には注意が必要で、合板は避け、無垢材にするか、あるいは中古品にするか、システムキッチン等は業務用のステンレス製にするなどの工夫が必要です。
A カーペット
 カーペットの場合は、繊維と裏打ち材の接着剤、裏打ち材の合成ゴムに化学物質が使われています。質のよいウールが最適ですが、高価。しかし耐用年数を考えると安価な製品と比較しどちらが経済的か。
B カーテン
 防炎、抗菌、防虫処理剤が使用されています。

◆家の中に持ち込まれる化学物質 その2 身の回りの生活用品に含まれる化学物質

芳香剤・消臭剤  パラジクロロベンゼン
強い臭いで臭いを消す。トイレボールも同じ。花粉症、アトピー、アレルギーの原因物質の一つ発ガン物質
スプレー殺虫剤
強いゴキブリもイチコロ。有機リン系の化学物質。発ガン物質、蚊取り線香、ゴキブリ殺虫剤
寝具・衣料品
ホルムアルデヒド、漂白剤。ドライクリーニングの洗剤は有機塩素系を使用。発ガン物質、ホルモン異常
香水・化粧品
化学合成の香水、化粧品の防腐剤はカビ発生防止のため使用。
掃除用品
洗剤 強力なものほど人体に危険
カビ取り剤、掃除機のゴミパックに防ダニ、抗菌剤、掃除機から農薬をまいています。

  
◆身の回りの用品に存在する化学物質
 
 私たちが普段使っている身の回りの生活用品に意外と化学物質は多くあります。これらは、大量生産、経済性重視で化学物質を多用し、人間の健康に最大限の配慮は犠牲となっています。次世代にどのような影響があるのかを考えるとより深刻です。有害な化学物質から身を守るキーワードは自己管理と自己責任、より正確な化学物質情報の取得、他人まかせの依存型ライフスタイルから脱却が必要です。ご自分で使用している製品に,以下の物質が記載されているかどうか確認してみてください。

 
プロピレングリコール
 化粧品、洗剤、シャンプー、ベビー用品等に使用され、染色体異常、肝臓、腎臓、心臓、脳への障害、皮膚炎、皮膚細胞への発育障害が指摘されています。工業的には、ブレーキオイル、凍結防止剤、プラスチックの可塑剤、界面活性剤として使用されている物質です。
ラウリル硫酸ナトリウム
 シャンプー、ボディシャンプー・石鹸、歯磨き粉等に使用され、皮膚から血液へ入り全身に回ります。目、心臓等への長期的障害が指摘されています。工業的には、強力な洗浄剤、潤滑剤として使用されています。自動車のエンジン洗浄剤に配合されています。
ラウリルエーテル硫酸塩
 シャンプー、クレンザー等に使用され、他の物質と化合して発ガン物質。皮膚から血液へ
エデト酸塩
 シャンプー、ボディシャンプー・石鹸、シェービングクリーム等に使用される。変質防止剤。皮膚、粘膜、目への刺激性、ぜんそく、発疹の原因、肝臓障害。
タール色素
 シャンプー、リンス、口紅等に使用され、着色剤。発ガン性、アレルギーの原因。
アルミニウム
 発汗防止剤、防腐剤などの原料として多用。神経、アルツハイマー
 
4.室内化学物質汚染の対策の現状は

4.1 厚生労働省の指針値について
 
 厚生労働省は、この値以下ならば人体に安全と言う指針値を12化学物質について定めています。単位のμgは百万分の1 gです。
人体への影響の欄は、医学的に因果関係が証明されている訳ではありませんので、いろいろな研究者が述べているのをまとめたものです

表3厚生労働省の指針値

揮発性有機化合物 室内濃度指針値 使用されている建材 人体への影響
  ホルムアルデヒド   100μg/m3(0.08ppm) 合板,壁紙,建材用接着剤,壁紙の接着剤   発ガン性,発ガン促進作用,アトピー,ぜん息,アレルギー
  トルエン1),2)   260μg/m3(0.07ppm) 施工用接着剤、 塗料溶剤、ワックス溶剤   発ガン性,頭痛,めまい,吐き気,目・鼻・喉への刺激、吐き気、中枢神経系傷害,皮膚炎
  キシレン1),2)   870μg/m3(0.20ppm) 塗料の溶剤
  パラジクロロベンゼン1),2)   240μg/m3(0.04ppm) トイレ用消臭剤、芳香剤   眼・鼻・のどの刺激、咽頭痛、悪心、嘔吐、肝・腎機能低下
  エチルベンゼン1),2),3)   3800μg/m3(0.88ppm) 塗料用溶剤 眼、皮膚、気道の刺激、中枢神経への影響
  スチレン1),2)   220μg/m3(0.05ppm) Pタイル、発砲スチロール、プラスチック   眼、皮膚、気道の刺激、喘息
  クロルピリホス4),5)   1μg/m3(0.07ppb)但し、小児の場合は、0.1μg/m3(0.007ppb) シロアリ駆除剤,タタミの防ダニ剤,合板の防虫剤 発ガン性,麻酔作用、急性毒性,頭痛,全身倦怠感,発汗、下痢、筋萎縮、視力低下,神経毒性
  フタル酸ジ-n-ブチル   220μg/m3(0.02ppm)  壁紙の可塑剤,塗料 発ガン性,ホルモン異常,生殖異常,中枢神経系傷害,胃腸障害、細胞毒性、下痢、嘔吐
  テトラデカン2),6)   330μg/m3(0.04ppm)  塗料等の溶剤、灯油は主要な発生源となりうる   肝臓障害
  フタル酸ジ-2-エチルヘキシル   120μg/m3(7.6ppb)注1   壁紙の可塑剤,塗料 発ガン性,ホルモン異常,生殖異常,中枢神経系傷害,胃腸障害、細胞毒性、下痢、嘔吐
  ダイアジノン4),5)   0.29μg/m3(0.02ppb)   殺虫剤成分 発ガン性,麻酔作用、急性毒性,頭痛,全身倦怠感,発汗、下痢、筋萎縮、視力低下,神経毒性
  アセトアルデヒド   48μg/m3(0.03ppm)   接着剤や防腐剤 鼻腔嗅覚上皮に影響,染色体異常,発がん性,麻酔作用、意識混濁、気管支炎、肺浮腫等
  フェノブカルブ   33μg/m3(3.8ppb)   殺虫剤,防蟻剤 活性阻害をはじめとする各種異常,倦怠感、頭痛、めまい、悪心、嘔吐、腹痛など
 総揮発性有機化合物量 (TVOC) 1),3)   暫定目標値              400μg/m3(0.32ppm)
 
1)海外で指針が提示されているもの、2)実態調査の結果、室内濃度が高く、その理由が主として室内の発生源によると考えられるもの、3)パブリックコメントから特に要望のあったもの、4)外国で新たな規制がかけられたこと等の理由により、早急に指針値策定を考慮する必要があるもの、5)主要な用途からみて、偏りがないようにすること、6)主要な構造分類からみて、偏りがないようにすること

4.2 海外の室内環境のホルムアルデヒド基準

表4海外の室内環境のホルムアルデヒド基準 文献2)

 
4.3 化学物質の濃度について
 
 化学物質の濃度は、容積表示(化学物質の体積/空気の体積)か重量表示(化学物質の重量/空気の体積、μg/m3)で表します。
 体積表示の場合について説明します。私たちが日常使う%は、100個のボールがあり、1個だけ他のボールとは色が異なるとき、この色の違うボールが含まれる割合を1%と呼びます。化学物質において、【ppm】という単位は、100万個のボールの中に異色のボール一つ、つまり、百万分率(parts per million) を意味し、同様に、【ppb】は、10億分率(parts per billion)、【ppt】は1兆分率(parts per trillion) を意味します。このように、化学物質は低濃度で表されています。pptは50mのプールに一滴ほどの量と言われています。現実では考えられないほど微量な量が有害物質による空気汚染や環境ホルモンなどを論ずるとき問題になります。
 
記号  備  考
%  百分率  percent
 ppm   百万分率   parts per million
ppb  10億分率   parts per billion
ppt  1兆分率  parts per trillion 50mのプールに一滴ほどの量
 
 ガスの濃度測定は、ガステック社のガス検知管(1本200円程度、使い捨て、価格は対象ガスによる)と吸引ポンプ(27,000円程度)で簡単にできます。測定対象ガスごとに検知管が準備されています。酒酔い運転検査で使用するのはアルコールに反応する検知管です。ガラス管の中に、吸引ポンプで測定空気を導くと、ガス濃度によりガラス管内の色が変わる範囲が多くなり、目盛りで読むことにより濃度がわかります。高校、大学などで理化学機器を扱う業者から購入できます。また、ディジタル表示の半導体センサー方式の測定器(約150,000円程度と高価)、その他、本格的には、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフによる化学分析を行ないます。この場合は測定環境からガスを採取管に採取し、研究室で分析します。

 
4.4 指針値の妥当性は


  厚生労働省の室内濃度に関する指針値の概要には次のような文章が書かれています。


『室内濃度に関する指針値の概要

 指針値の策定は、室内空気環境汚染の改善又は健康で快適な空気質の確保を目的としている。我々はその生活の大部分を室内空間で過ごす訳であり、健康で快適な空気質を享受することは、一般国民の権利である。従って、基本的には、室内空気環境中に存在する可
能性のある物質は全て指針値策定の対象となり得る。指針値の適用範囲は、特殊な発生源がない限り全ての室内空間が対象となります。

 ここで示した指針値は、現時点で入手可能な毒性に係る科学的知見から、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を算出したものである。これらは、今後集積される新たな知見や、それらに基づく国際的な評価作業の進捗に伴い、将来必要があれば変更され得るものである。

 一方、シックハウス症候群と呼ばれる病態で苦しんでいる方の中には、空気中の微量の物質に過敏に反応してしまうことがあると報告されているように、この指針値を満たしている室内空気質であれば絶対に安全であるとは言えない場合もある。しかし、指針値を定め、普及啓発することで、住宅や建物の環境改善が進めば、多くの人たちが新たに健康悪化をきたさないようにすることができるはずである。

 従って、指針値を満足するような建材等の使用、住宅や建物の提供もしくはそのような住まい方を期待するところである。一方、指針値設定はその物質が「いかなる条件においても人に有害な影響を与える」ことを意味するのではない、という点について、一般消費者をはじめ、関係業界、建物の管理者等の当事者には、正しく理解していただきたい。

 指針値を策定する際、どの物質を選定するかについては、本検討会中間報告書−第1回〜第6回のまとめ(平成12年6月)の指針値策定の今後の方針で述べてある通り、対象物質を選定する際に考慮すべき6つの事項に従っている。それらは、
1).海外で指針が提示されているもの
2).実態調査の結果、室内濃度が高く、その理由が主として室内の発生源によると考えられるもの
3).パブリックコメントから特に要望のあったもの
4).外国で新たな規制がかけられたこと等の理由により、早急に指針値策定を考慮する必要があるもの
5).主要な用途からみて、偏りがないようにすること
6).主要な構造分類からみて、偏りがないようにすること』 


 アンダーラインの部分「現時点で入手可能な毒性に係る科学的知見から」に見られるように、はなはだ頼りのない指針値であることがわかる。建材業界に配慮したと言う人も多い。実際に動物実験を多く行い、さらに、データを収集すべきである。

 オーストラリア・ギャレット博士は、室内のホルムアルデヒド濃度と子供のぜん息発症率との関係を1年間にわたり調査し、室内のホルムアルデヒド濃度40ppb以上で、44%、16〜40ppbで、約38%、16ppm未満で約15%子供のぜん息発症率の研究結果を発表しました(文献1)。この結果から指針値が安全という値であるとは言えないことがわかります。

 デンマーク、N.スカベック教授の研究結果によると精子の数の減少は、有機塩素系化合物、フタル酸化合物が影響していると報告しています。

 HIV等の他の健康被害と同様に、被害が生じて初めて対策が講じられます。厚生労働省の指針値は「現状ではこの程度の値」、将来は変更になるかもしれないと明記しているように、きわめて、少ないデータからの指針値の算出であり、世代に渡って現れる環境ホルモンのたぐいの被害は、現在は問題視されていないが、将来、問題となる物質になりうる可能性があります。また、化学物質感受性は人によって異なり、有害物質を処理可能な量も人によって異なることが通説となっています。従って、普段から化学物質にさらされる機会が多いほどシックハウス症候群の被害に合いやすいことが推定されます。


4.5 シックハウス問題に対する改正建築基準法について
  

 平成15年7月1日の改正建築基準法の規制の主な内容は以下の通りです。

(1) 改正建築基準法の規制は平成15年7月1日以降に着工される建築物(6月以前に建築確認を行ったものを含む)
(2) 規制対象は居室を有するすべての建築物
(3) 内装仕上げに用いる建築材料の使用制限(ホルムアルデヒド発散量、種別による使用制限と使用面積制限)
(4) 機械換気設備設置の義務付け
(5) 天井裏等に用いる建築材料の使用制限、気密層、通気止め設置措置、または機械換気設備設置の義務付け
(6) クロルピリホス(防蟻剤・殺虫剤)の建築材料への添加禁止
(7) 確認申請図書への「使用建築材料表」添付
(8) 中間、完了検査申請書への使用建築材料に関する監理状況の記載と施工状況写真の添付

 平成15年7月1日に改正された建築基準法では、上記、(1)〜(8)の条件を満たす必要があります。良心的な施工業者ばかりではありませんので、ユーザーも、書類を確認するとき、自分の家ができあがったときに(1)〜(8) の条件を満たしているか、ご自分で確認できる程度の知識は必要となります。

 現在は、濃度測定の結果、有害化学物質濃度が表3の厚生労働省の指針値を満たしておらず、シックハウスになる可能性があるとしても違法建築ではありません。建築基準法第1条目的「
・・・・国民の財産と健康の・・・・」と記載されていることには反することになり、ユーザーの立場からしますと納得できませんが。


 国土交通省の業者に対する講習会テキスト・改正建築基準法に対応した「
木造住宅シックハウス対策マニアル」(平成15年5月)では次のように書いてあります。
P.143 3.住宅の設計・施工での検討事項
    3-1. 設計の流れ
(a) 建て主の話を聞く、基準などを説明する
  建て主の健康状態(化学物質に対して過敏か、ぜんそく、アレルギー、アトピーは)、ライフスタイルは。換気の必要性、換気方法の種類、使用方法を説明する。
(b) 間取りの検討
(c) 居室・天井裏等の区別と対策
 居室・天井裏等の区別と対策、室内の建具の通気性、天井裏等の対策
(d) 仕上げ材や下地材の検討
 居室の仕上げに使う健材の選択。天井裏の下地材の選択。その他の材料の選択
(e) 仕上げ材などの使える面積を計算
(f) 換気の方法を検討
P.144
    3-2. 建て主の話をよく聞く、基準などをよく説明する
(a) シックハウス対策としてどの程度のレベルを希望するか 。
(b) シックハウス対策を含めてどの程度のレベルを希望するか。
(c) 家族の健康状態、体調の悪い人がいないかどうか。 もし、アレルギーやぜんそくの人がいた場合は、より高度なシックハウス対策が必要。対策に詳 しい設計者などの協力を求める必要がある。
 業者向け講習会のテキスト「木造住宅シックハウス対策マニアル」には上記のように記載されています。P.143-144のような説明が、建て主に対して無いことは標準的な業者ではないことを示しています。こちらから逆にどのような対応をしてきたか質問する必要があります。
 特に、P.144 3-2. の内容に関して、業者に適切な返事をする場合に、建て主側はシックハウスに関するかなりの知識を持っている必要があります。事前の勉強が不可欠となります。知識がないまま、契約にのぞみ、万一、薬害ハウスとなった場合、「契約時シックハウス対策の確認をしましたよね」との話になり、後の祭りとなりかねません。
 それにしても、「
(b).シックハウス対策を含めてどの程度のレベルを希望するか。」の質問の意味がよくわかりません。対策がなされ、シックハウスがないのが当然です。「現状はシックハウス問題があるので被害が起きたときの責任逃れ」としか言いようがありません。
 P.144(c)に記載のように、すべての建築関係者がシックハウス対策に精通している訳ではないことを示しています。ますます、建て主は知識を得て防衛しないと大変です。
 
5.室内化学物質汚染の対策は進んでいるか
5.1シックハウス症候群に対する認知度は向上したか
 
 1994年頃から、室内化学物質汚染に関する報道がなされてきた。これに対応して室内化学物質汚染の対策が始まった。朝日新聞の記事から3年後の朝日新聞2003.2.6の記事では、対策はほとんど進んでいないことを示しています。調布市立調和小学校で、新築校舎の開校前後に。濃度測定を行い、トルエンなどの濃度が指針値を上回ったことを確認しながらもそのまま開校し、小学生の一部がシックハウス症候群になり問題になった記事です。東奥日報2003.7.18の記事では、大阪の保育園の場合、4月の開園直前に、濃度測定した結果、指針値の16倍のトルエンが検出されたが、市はそのまま開園し、7月の健康診断で19人の園児がシックハウス症候群と診断されたものです。設計者、施工業者、施主である行政、使用者の学校、保育園関係者すべてが、シックハウス症候群に対して認識不足であったことを示しています。
 
 朝日新聞の記事で述べた「認知度の低さ」は、設計者、依頼者など関係者すべてにおいて、いまだに問題であることを示しています。文部科学省は2002.4以降は、ホルムアルデヒド、キシレン、トルエン、パラジクロロベンゼンの4物質については指針値を定めている。設計した建築会社、設計者、施主の室内化学物質汚染に対する意識の低さを示しています。
 
 室内化学物質汚染の被害者の訴えに対して、ほとんど和解が成立するため、裁判例は表面には現れない場合が多くなっています。 前述のように、2000.12の判例では、「因果関係が未証明」と言うことで裁判では患者の主張が認められなかったが、現在では、シックハウス症候群に関する情報量が多く、状況はかなり変わってきました。前掲の大阪の保育園の場合も、市と建設会社に対して損害賠償などの民事調停を裁判所に申し立てました。住宅を建築する側は、「予め予想できる危険性を防止する義務」、「危険と判断されたときの回避義務」を認識する必要があると思われる。いずれ、罰則を伴う室内化学物質汚染物質の総量規制が実施されると予想されます。建築業界は、早急な対応をすべきであるとかんじています。また、化学物質の毒性と健康被害の関係が明らかになってくれば、住宅に対してPL法(製造物賠償責任)が適応されたらどうなるのかも視野に入れる必要があるでしょう。

 
5.2 室内汚染の主原因である化学物質の把握と毒性の解明は

 健康を害する室内汚染の主原因は化学物質であることは周知の事実になってきた。現在、有害な化学物質を放散する建材が使われている以上、次の@からDの項目について考慮せざるを得ないのが実情です。
 
@ 室内を汚染している化学物質の特定
A 室内を汚染している化学物質すべての濃度の把握
B 室内を汚染している化学物質の毒性の把握
C 建材から発生するすべての化学物質の健康に影響を及ぼさない濃度の基準設定
D この濃度の基準を満足する建築法(材料)の実現等が必要である
(1) 室内を汚染している化学物質の特定
  国(厚生労働省、国土交通省)の対策は遅れている。また、建材メーカーの情報非公開主義が化学物質の特定を困難にしている。食品と同様に、建材に使用されている化学成分を明記する法的な手段が必要とされる。また、濃度が低いため化学物質の特定は技術的にかなりのコストが必要とされるが、効率的に測定対象物質を明確にするためには、建材メーカーの情報公開は必要である。
(2) 室内を汚染している化学物質すべての濃度の把握
 すべての化学物質を同時に測定できる技術は現在確立していない。特定した化学物質1種について測定することになり、物質名が判明していないとき場合は、現実的には測定が不可能である。

(3) 化学物質の毒性の把握
 この毒性の把握には医学の分野で因果関係が証明されなければならず、前述のように対応は遅れている。しかしながら、化学物質を含む建材を開発した技術者とあるいは添加した化学物質そのものを開発し、使用方法を周知させなかった化学技術者の責任は大きい。技術者は、材料として採用する以上、経済性を優先するよりも、安全と健康に最大の配慮をする必要があり、化学物質に関する毒性の知識を有することは当然である。
 
6. シックハウス症候群対策
6.1 有害物質が検出された場合の処置
(1) 通風・換気
 伝統的な日本の家屋にみられるように自然換気が重要とされています。建材が汚染源の場合は簡単に取り除くことはできません。したがって、通風・換気が重要となりますが、強力な換気扇でも意味がないことをデンマークのファンガー博士は報告しています(1996,国際室内空気質会議)。実際、24時間換気システムでは解決にならない事例が報告されています。自分の手で、こまめに窓を開けて自然換気することが必要です。以前の障子、廊下、雨戸付きの住宅は、冬季の断熱性能は劣りますが、換気・通気の点で優れていることがわかります。もう一度見直す必要があるかと思われます。表5に見られるように、日本人の自然換気の意識は他の国と比較すると機械設備換気に頼り、低いことがわかります。
表5 住まいの換気に対する意識調査、国際比較
国名 換気設備の利用(%) 窓を開けて換気(%) 特にしていない(%)
イタリア 0.0 99.0 1.0
スペイン 0.3 97.3 2.3
ドイツ 0.3 92.8 5.9
韓国 3.0 92.0 4.7
日本 9.4 53.2 37.4

資料:東京ガス都市生活研究所(1992年調査)

(2) 封じ込め
化学物質を発生する建材を封じ込める方法。アルミシートなど。
(3) ベイクアウト
化学物質は温度が高いと放散量は多くなることを利用し、室温を30〜40℃程度に保ち、時々換気する。これを3日かけて行う。塗料に対して効果があると言われている。
(4) 化学物質を放散する建材の取り替え
化学物質を放散しない建材に変える。これらの建材については文献1).2),3)に特徴、成分、入手先等が詳細に示されている。
 


6.2 シックハウス症候群対策
6.2.1 素材や値段までわかる明細書を

 前述のように、我が国においては、行政機関、医療機関のシックハウス対策は大変遅れており、心許ない現状です。現段階では、後述の伝統的な建築工法の採用、あるいは化学物質を発生しない自然素材の建材の使用、家具等に含まれる化学物質を室内に持ち込まない方法しかないように感じます。建築関係者が述べているように、需要と供給の関係から、合板よりも無垢材が安価な場合があるし,また、流通過程を産直などに切り替えてコストダウンをはかっている業者もいます。いずれにしても、室内化学物質汚染に対する一層厳しい規制は差し迫った問題ですので、業者の皆さんは,早めに対策を講ずる努力が必要と思われます。こうすることにより,他の業者との差別化が生まれ,営業的にも有利なはずです。現状維持はどの分野においても楽ですが。

 地球生活マガジン「チルチンびと」No.16,2001.Spring.では梁、柱1本の素材や値段までわかる明細書を提案しています。こうすることにより、ユーザーに対して説得力のある書類になり、化学物質を含む材料がどこで,どのくらい使用されているか明確になります。ユーザーは1生に1度の高額な買い物をするわけですので,この点からも納得のゆくものとなると思います。「・・・・一式  OO,OOO円」のようなおおざっぱな記述ではどのような材料を使っているのか不明です。

 オープンシステムネットワーク会議(http://www.open-net.jp)では,建て主と専門工事業者との直接契約,分離発注方式を採用しています。
 従来ですと,住宅の建築をハウスメーカーや工務店に委託する方法を"一括請負方式"と言います。この場合,ハウス会社は,宣伝,広報の活動が主体で,実際の工事は,大工さん,基礎屋さんなどの各専門工事業者が行います。
 分離発注方式では建て主が直接,各専門工事業者に工事を依頼し,指示を行い,管理します。素人の建て主がこれらを行うのは困難ですので,豊富な経験と建築の知識を持つ設計事務所に依頼し,打ち合わせ,図面の作成,予算の管理,工事の管理を行います。木材や建材の原価が建て主へ請求がいき,設計事務所へは,設計管理料金を支払います。従来の一括請負方式の場合のように,ハウス会社と各専門工事業者との間のマージンは無くなりますので,安価に,しかも,各建材などの素性も見積もりの段階で明確になりますので,シックハウスの問題も回避できる可能性が大きいと思われます。
 オープンシステムネットワーク会議に参加している設計事務所は全国283社,"価格が見える 家づくり"が特徴です。詳細はホームページでご覧下さい。
 
6.2.2 簡単にできるシックハウス対策

 屋根は茅葺きか日本瓦、壁は漆喰、窓は木枠、玄関は引き戸、廊下と障子、かって普通であった自然素材をふんだんに使い、自然換気と調湿性に優れ、結果的に人間の健康を確保する日本の伝統的な家屋はどこに行ってしまったのでしょう。建築家あるいは建築業者は何故、簡単に日本の伝統的な材料や工法を捨ててしまったのでしょうか。また、新しい建材や工法に疑問を持たなかったのでしょうか。化学的な知識が少しあり、居住者の健康を配慮したなら、現在の状況はかなり変わっていたと推定されます。新建材が使われるようになってから、家が原因で生ずるシックハウス問題が発生することになります。
 
 次に、文献1)で提案されている快適住宅の内容の一部を紹介します。詳細は,文献1)でご覧下さい。室内汚染を防止するため、ユーザーが、勉強し、知識を身につけて提案することが必要と著者は述べています。残念ながら現状は,建て主が気を配らなければシックハウス問題が発生することになります。本来は,建築の専門業者が,お客の健康を配慮するのは当然ですが。

 ハイテクの時代に,問題が生じてから対処すると言ったことが私達の回りにはいっぱいあります。科学技術とは何なのでしょうか。環境の問題は代表的な例です。
 
(a) 基本に帰った家造り
 昔は、土地の気候・風土を心得た大工さんが、経験から、立地条件に合わせた適材適所の良質の建材を使用しました。最近は、工場で切断した材料を組み立てる仕事に変化してきた。最近の人件費の増大から、建材等でのコストダウンが必要となります。結果的に化学物質を含む大量生産可能な安価な新建材の採用ということになります。快適な家造りの知識を有する優秀な大工さんはまだ多く存在します。このような大工さんの言うことを理解できる建て主となるためには、私達が知識を得る必要があります。地方では、優秀な大工さんを発掘できる可能性大でしょう。また、このような大工さんの伝統的な技術の継承をどうするかが問題となっています。ちなみにヨーロッパでの大工さんの社会的な地位は技術者と同様な高さです。
 
(b) 見かけよりも健康
 地形にあった自然の風通しと換気、給排水が重要であり、デザインはこの次の問題と思われます。通気換気が悪く湿気が多いことからシロアリ、ダニ、カビの発生し、そのため、殺虫剤等の化学物質の使用が必要となってくるからです。賢い換気の仕方は自然に生きる動物たちの巣などを見習ったり、以前の日本住宅を見習う必要がある。昔ながらのかやぶきの日本家屋は自然のエアコンが備わってました。周りの地形に合わせた窓の取り方や、建築後、一日1時間は全部の窓を開けて換気する習慣も必要で、現在、日本人の自然換気の習慣は世界で一番低いと最近の調査結果は報告しています。これも、排気ガスや騒音等の住宅環境、都市環境が影響していると思われます。
  
(c) 水まわりのプラン
通風・換気を意識した水回りの間取り
 
(d) 結露対策
 結露は断熱材を使い、高気密・高断熱の結果、生ずるようになった。
@ 家の中に風の道を造る. ・自然の摂理に沿った間取り、十分な面積の窓
A 木製窓枠 サッシは結露がつきもの、木は断熱性が高い
B 調湿性のある建材、呼吸する建材
C 部屋の開口部は引き戸にする 開ければ風通しがよい
D 勝手口を造る 風の入り口と出口を確保することにより風通しがよい
 
(e) 基礎と土台  換気の確保と強度
 従来の換気口は、布基礎であるため、風の通りが悪く、湿気のためダニ、シロアリ、カビ等の発生を予防するため、シロアリ駆除剤、防カビ剤の使用する。ネコ換気方式 土台と基礎の間に“ネコ板”をはさみ、多くの通気口を確保
 
(f) シロアリに強い床下の条件
@ 床下の高さを60 cm以上にする
  床下の高さは大邸宅 90cm, 中流住宅 75cm, 普通住宅 50cm,建築基準法では45cmであり、百年以上の家は 100cmである。
A 基礎と土台の間に防蟻板
B 床下にも風の道 ネコ換気方式
C 床下の湿気を防ぐ工夫
  ・ コンクリートを敷き詰める ・敷地よりも土盛りして高くする
  ・ 湿気を吸い取る材料を床下に ・床下ファンの設置

 
7.シックハウス問題解決の課題として
 以上、シックハウス症候群について調べましたが、問題を解決するためには次の事項を早急に解決する必要があると感じています
化学物質依存の建材の改良
 化学物質の放散が無い建材の開発、自然素材採用の場合のコストダウンと作業性の改善、有害物質を軽減する建材の開発
換気設備依存の室内換気法の改善
 建築構造に自然換気法の導入、自然換気の生活習慣を建築主に指導する必要性
産業界を保護する行政指導の転換
 住生活者の健康を保護する行政指導、有害物質の総量規制、公的相談所、因果関係を明らかにするための医学的な研究

■ 建築物設計者、施工者のスタンスとして必要と思われる事項

シックハウス症候群の現状を建築主に説明する必要性。室内空汚染発生源の化学物質依存の建材が使用されている限り、シックハウス症候群の被害を受ける確率は高いため。
そして、化学物質測定の必要性を建築主に説明する。
測定結果が指針値よりも高い場合の処置を事前に建築主と取り決める。
引き渡し時に、換気の習慣の指導をする。
1戸の住宅建設に関わる企業のすべてが、シックハウス症候群に対する認識が同じレベルであることを確認すると共に指導する必要性
作業者の化学物質汚染の対処法の確立
いずれ、すべての有害物質を対象とする規制と総量規制の実施されると予想される。早急な認識と対応策の検討が必要
 
 建材に関しては、最近、かなり改善が進行しているが、使用している化学物質のデータを公開することがユーザーに安心を与えることになると思われます。住宅を造る側も知識を得て、現状では情報取得のための努力が必要とされます。どの業界も現状維持が楽であり、現状のままの造り方をすることは容易であるが、規制が厳しくなることは必然と思われるので、早急に対応することが営業的にも有利であり、信頼性のある住宅の提供となります。ユーザーも、他人任せの住宅の作り方は止め、快適な環境を得るための知識を得る努力が必要です。ユーザーの健康を考えて研究熱心な建築家の説明も理解不能となり、結局、ローコストのみに関心が集中し、健康を害する結果になりかねないからです。
 
8.賢い建て主・買い主とは
 以前、建築関係者の多くは、シックハウスになったとき、あるいは自然素材を使った家を建てることを提案したとき「新建材を使わないで家を建てるのは不可能」と言っていましたが、現在はかなり状況が変化して、全国各地に自然な建材で住宅を建てることを望むユーザーが増え、研究熱心な工務店や大工さんが増え、努力してユーザーの要望に添う住宅を提供する状況になってきました。
 
8.1 業者選びのポイント
 日本では、シックハウスの心配のない伝統的な建物を捨て、安く、速く、簡単に造ることが求められる時代が続き、最近、ようやく、真の良い家、健康的で豊かなものが求められる気配になってきました。どのような人であれば私たちが望む健康的で豊かな家を提供してくれるのでしょうか。

 
感性豊かな人は、健康意識も高い
設計者や業者自身が、健康管理ができず、化学物質のにおいに鈍感という無神経さでは細やかなところに気遣う繊細さを求めるのは無理でしょう。
一流の建築家であれば健康意識も高いか
一流建築家がデザインした作品の建材を一流建築誌やTVのリフォーム番組、建築紹介番組で見る限り、必ずしもそう言い切れない現実がある。
工務店、大工さんの選定は
 経験豊かな工務店、大工さんに依頼することにつきます。工務店、大工さんの選ぶ前に近所の評判を調べ情報を入手しましょう。最近は、工場で切断加工し、現場で組み立てる場合が多いのですが、伝統の技と現代の技術を兼ね備えた工務店、大工さんであれば理想的です。
ハウスメーカー
 ハウスメーカーの良さはモデルハウスで実物を見て、好みでプランなどを選べるところにあります。企業の規模が大きいため、契約担当は営業マン、施工は下請け業者です。住んでからのトラブルもこの辺に原因があるようです。莫大なコマーシャルの経費も含まれてきますので家の価格に跳ね返ってきます。
その他 シックハウス対策の説明は?
 平成15年7月1日に改正された建築基準法では、ホルムアルデヒドとクロルピリホスが対象で、問題の化学物質は他に11種類もあります。現状での建築基準法では常にシックハウスの問題が生ずる危険があります。建設業者は、シックハウス対策とコストの説明、化学物質の濃度測定の必要性、平成15年7月1日に改正された建築基準法の説明を建て主に説明することが最低限必要です。
 
8.2 住宅の設計・施工時に
 4.5節で記載したように、国土交通省の業者に対する講習会テキスト・改正建築基準法に対応した「木造住宅シックハウス対策マニアル」で励行している内容に沿った説明がなされない場合は注意が必要です。再掲します。
 
P.143-144のような説明が、建て主に対して無いことは標準的な業者ではないことを示しています。こちらから逆にシックハウスに対してどのような対応をしてきたか質問する必要があります。
P.144 3-2.の内容に関して、業者に適切な返事をする場合に、建て主側はシックハウスに関するかなりの知識を持っている必要があります。事前の勉強が不可欠となります。知識がないまま、契 約にのぞみ、万一、薬害ハウスとなった場合、「契約時シックハウス対策の確認をしましたよね」 との話になり、後の祭りとなりかねません。
P.144(c)に記載のように、すべての建築関係者がシックハウス対策に精通している訳ではないことを示しています。ますます、建て主は知識を得て防衛しないと大変です。
 
8.3入居後の注意
●通風・換気の習慣が重要
 
 伝統的な日本の家屋にみられるように自然換気が重要とされています。建材が汚染源の場合は簡単に取り除くことはできません。強力な換気扇でも意味がないことをデンマークのファンガー博士は報告しています(1996,国際室内空気質会議)。実際、24時間換気システムでは解決にならない事例が報告されています。自分の手で、こまめに窓を開けて自然換気することが必要です。表では、日本人の自然換気の意識は他の国と比較すると機械設備換気に頼り、低いことを示しています。機械設備換気に頼らず自然換気することは環境の面からも大切です。

 設計時、新鮮な空気の取り入れ口の位置と換気扇設置位置の配置関係はかなり重要です。例えば、ホルムアルデヒドは空気より重いですから、新鮮な空気の取り入れ口は下になければならず、人間の居住状態との関係もあります。ソファに座る時間が長い場合と絨毯に座って遊ぶ時間が長い場合は、換気を有効に行うとき、設置位置は微妙に異なるものです。この辺の知識もユーザーに必要とされます。あまり気にしない業者がいることも確かです。
●化学物質を発散する家具やその他の製品を部屋に持ち込まない
 前にも述べましたように、有害な化学物質を発生するのは建材ばかりではありません。注意が必要です。
 
まとめ
 前掲のように、建築基準法の第一条目的には、

この法律は建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする

と記載されている。ユーザーの立場から、「この法律はいったい何なのか?」と言う疑問が生じてきます。すべての建物はこの建築基準法の精神に基づき建てられているのです。シックハウス問題を起こした住宅は結果的に違法建築と言うことになります。身の回りの化学物質の項で述べたように、建材だけではなく、身の回りの製品、食品に関しても同様な疑問が生じてきます。最近の大企業の不祥事(ホヤレンズのコーティング偽装、東京電力の検査結果隠し、日本ハムの虚偽申請、雪印の再製品化、東海村の放射能漏れ事故等々)は、一部の大企業は法とは関係なく事業を行っていることを示しています。

 化学関係の書物の試薬の項に
   ホルムアルデヒド  ------ 許容濃度5ppm ------
   トルエン        ------ 有毒、蓄積性、許容濃度200ppm ------
と記載されているように、化学分野の技術者であれば、毒性に関する知識は常識的な知識です。合板等の接着剤、塗料を開発するとき安全性や人体に与える影響、医学的な問題に配慮がなされなかったのかどうか。これらのことより、経済性を優先したのかどうか。最近の大企業の不祥事をみると後者と考えざるを得ません。

 最近、私たちの衣食住のほとんどに、多くの化学物質が入り込んでおり、特に若年層は化学物質に過敏な状態となっています。それらが相互に影響していると思われます。例えば、ある高校で塗装工事をしている廊下の近くを生徒が通ったとき、めまいを起こして倒れたとの話はこの辺の事情をよく表しています。以前であれば考えられないことです。このような状態から自分自身の安全と健康を守る必要があり、このためには、自己管理と自己責任、より正確な化学物質情報の取得、他人まかせの依存型ライフスタイルから脱却が必要です。室内環境汚染に関しても、快適な環境を得るための知識をユーザーは身につける必要があると考えています。

 

■今回参考とさせていただいた文献

 シックハウスに関して一般の方にもわかりやすい書籍、種々の事例が詳細に記述されている。また、シックハウスになったときの相談先、測定依頼先、自然素材の入手先等、詳細に記載されている。

1) 「住まいの汚染度完全チェック」、能登春男・あきこ著、情報センター出版局、1997.\1,200,書店で購入可能
以下はかなり専門的で業者向け文献、ご自分で健康な材料を選んで設計する場合に便利
2) 「建築知識」特集2 失敗しない健康住宅[緊急]マニュアル,建築知識,1999年,9月号. 
3) 「建築知識」特集 シックハウス[完全対策]バイブル,建築知識,2001年,3月号.(バックナンバーとして入手 可能(在庫未確認です)
4) 地球生活マガジン「チルチンびと」、No.16,2001.Spring. 梁、柱1本の値段までわかる「自然素材の家 を原価公開で建てる」
5) 改正建築基準法に対応した「木造住宅シックハウス対策マニアル」、工学図書株式会社出版(2858円)、平成15年5月.