材料の強度と破壊>SUS304ステンレス鋼の温泉水による腐食

    SUS304ステンレス鋼の温泉水による腐食の原因について
                          
八戸工業大学  小 山 信 次
1.はじめに

 

 八戸市では,天然温泉が市内の多くの場所に存在し,その中の1つの温泉において 温泉水が流れる304ステンレス製の水路の内面,外面共に赤錆の腐食生成物を伴う腐食が生じた。一般には,ステンレス鋼はさびないものという認識が高く,施主と施工側においてクレームの問題が発生した。
 ステンレス鋼は,炭素鋼に12%以上のクロムを添加することにより、図1に示すように,金属表面に酸素との金属化合物が数分子程度の厚さの被膜となって生成される。この酸化物被膜を「不動態」といい、この皮膜が耐食性を向上させる基本となっている。一般には、ステンレスは"さびない"と言う意味の材料であるが、この酸化皮膜を破壊するような特殊な酸やイオン等の環境中では、もはやステンレス鋼の耐腐食性はない。すべての環境に対して完全な耐腐食性を有するわけではなく、ステンレス鋼が使用される環境には十分注意すべきである。また、ステンレス鋼は表面に付着した異物によるすきま腐食が生じ、表面は常にきれいな状態で使用する必要がある。

 
図1 金属表面に不動態の形成
 
2.腐食状況
 
腐食の様相は、温泉水が流れる304ステンレス製の水路の内面,外面共に赤錆の腐食生成物を伴う腐食が生じたものである。温泉水の温度は50℃程度と考えられる。次の表1は温泉水の成分分析表の一部である。一般にステンレス鋼は,塩素イオンに犯されることが分かっている。塩素イオンの濃度は,換算すると2220ppmである。
 
表1 温泉水成分分析表の一部

  
 
 
3.腐食原因の推定
 
 文献1)では、塩化第二鉄溶液(塩素イオンを含における腐食の様相)中での腐食試験において,温度が高いほど腐食の程度はひどくなり、沸騰水においては全面が腐食すると報告している。図2は304ステンレス鋼のNaCl (pH7)中における孔食に及ぼす温度の影響である。

図3 304ステンレス鋼のNaCl (pH7)中における腐食に及ぼす温度の影響1)
 
      
 塩素イオン濃度が大きいほど、低い温度で腐食が生じやすいことを示している。温泉水の場合、分析データから、塩素イオンの濃度は、2200ppmであり、さらに塩素系の殺菌剤の塩素量を考慮するとさらに低温度で腐食しやすくなることが推定される。2200ppmの塩素イオン濃度では、45℃程度でさびは勿論,孔食(ピット)も生ずることが図から分かる。
 
4.まとめ
 
 以上のことから、温泉水による304ステンレス鋼の腐食は、従来の研究結果を参照すると、温泉水に含まれている塩素イオンが腐食の原因と推定され、また、塩素系の殺菌剤が腐食を一層促進していると推定される。
 304ステンレス鋼の場合、塩素イオンは耐食性を劣化させ、塩素イオンが含まれている以上腐食は避けられないと思われる。
 
参考文献
 
1) 金属の腐食損傷と防食技術,小若正倫,アグネ(1983).
 
*この報告書は温泉経営業者からの原因解析依頼によるものです。
 
 
代表的なステンレス鋼の腐食について
 
●高温腐食(酸化)
  バナジウムアタック、酸化、浸炭、窒化、硫化、硫酸塩
◎ バナジウムアタック
  低融点物質であり、金属表面に凝結し、溶融層を形成し、金属材料を加速酸化する。
  加速因子 Na,S,Cl,Na2SO4
 
●水蒸気酸化
 ・火力発電ボイラー過熱器管 原子力発電用材料
 ・表面にCr2O3被膜が生成、この箇所に鉄が拡散して酸化鉄が生成水に溶解
 
●海水腐食
 ・Cl-イオンの影響
 
詳細は参考文献を参照してください。
       

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