材料の強度と破壊>パソコンによる材料力学の教材開発

パソコンによる材料力学の教材開発    1999/10
 
エネルギー工学科
 小山 信次
 
1.はじめに
 
 Visual Basicは,Quick BasicからMS Basicを経て進化してきたBasicであるが,豊富なライブラリィを備えたMS Basicより.数値計算とグラフィックスの機能では劣るものの,以前の16ビットのBasicと比較すると,"Visual"の名の通り視覚的に格段の高機能を備え,旧Basicでは数百行のコーディングが必要であったプログラムのルーチンがわずか数行で可能となっている。また,マルチメディアコントロールなどの豊富なActiveXコントロールを導入することによって私達アマチュアでも市販のアプリケーションに匹敵するほどの見栄えの良いWindow上で動作するアプリケーションを作成することが可能である。最近は,アプリケーションを簡単にCD-ROM化でき,記憶容量を比較的多く必要とする写真や動画を取り入れたプレゼンテーションも可能である。
 設計技術の基本的な知識を与えてくれる材料力学は専門の初期に学び,難解と言われている。そこで,学生が,講義を聴いた後,自宅などにおいてパソコン上で繰り返し復習し,効率的に理解でき,そして講義よりも優れたプレゼンテーションを体験できる教材開発を目的とし,現在まで,Visual Basic の様々な機能を利用して,材料力学の教科書1)の内容をそっくりパソコン上に移植し,講義で学習した内容と同じ内容の教材を自宅で利用できるアプリケーションの開発を進めてきた。ここでは,現在までに開発したアプリケーションの一部を報告したい。
 
2.プログラムの開発環境・開発方針
 
 本アプリケーションを開発するために用いた,使用言語はMicrosoft Visual Basic Ver5.0,Ver.6.0 Professional Editionである。プログラム開発に当たって,学生が興味を持って学習でき,効率的に理解できることを目標とした。このため,次の点を特に留意してプログラミングした。
 
(1).効率的なテキスト,数式,図面の表示方法
  (2).市販のOCXソフトを用いた表示文章の音声読み上げにより聴覚的に学習可能
  (3).実験等の時間経過と共に変化する状態を表示する。すなわち,現象のシュミレーションとその詳細説明
(4).ビデオ等の動画の挿入による動的変化する現象の提示
(5).練習問題を解く場合,最終計算結果に導く新形式の問題提示,解法手順の開発
 
ここでは,主として,(1),(2),(3)について述べる。(4),(5)については開発中である。(4)については,ビデオを動画ファイルに落とすとActiveXのマルチメディアコントロールで比較的簡単に実現できる。(5)はかなり難問である。
          
 
2.1 テキストの画面表示
 
 文章の提示は,ファイルが大きくなるのを防ぐため,各章とも同じFormとコントロールを用い,コントロールにはスクロールが可能なListBoxを使う。スクロールバーによって全文章を見ることができる。また,数式表示は,ListBoxにおいて特殊記号や下付文字等の表示が不可能なため,文章中には式番号だけを挿入し,この部分がクリックされたときに,Microsoft数式エディターVer.3で作成され,準備された他のFormが開く形式をとる。同様に,図についても,図番号と図題をListBoxに表示し,この行がクッリクされたときに図面のFormが開くように設定する。図面を表示するコントロールはImageBoxである。予め作成された図面は各フォームに貼り付けておく。なお図の作成は,Just System「花子」,Micrograpfx 「Designer Ver.4」を用いた。
 
2.2 表示文章の音声読み上げ
 
 表示された文章の読み上げには市販のOCXソフトである沖電気工業製「Smart Talk Ver.2.0」を用いた。日本語テキスト音声合成OCXは,Microsoft Windows上で日本語テキストから音声を合成するActiveXコントロールで,このコントロールを利用すると,日本語音声合成機能を持つアプリケーションシステムをMicrosoft Visual Basic5.0や,Microsoft Excel97などで簡単に作成することができる。アプリケーションプログラムでは,音声合成コントロールの機能を利用することで,漢字かな混じり文から音声波形を合成し,サウンドデバイスに出力することができる。音声のプロパティは表1に示すように種々設定することが出来る。この音声合成OCXのプログラムの流れは以下の手順で比較的単純である。
            
表1 音声合成のプロパティについて
  音声合成の属性     設定値および種類
出力形式 8kHz 8/16bit, 16kHz 8/16bit, 22kHz 8/16bit
数字読み上げモード 自動判定,桁読み,棒読み
文終端記号
 
CR,カンマ,ピリオド,読点, 句点,?,!,CR連続
声の大きさ 10段階
声の速さ 10段階
声の高さ 10段階(男声,女声,別々に指定可)
声の種類 男声,女声
イントネーション 6段階
母音の無声化 する,しない
読み上げ記号範囲指定
 
間隔,記述,括弧,学術,単位,一般,
 罫線,特殊の記号
読み上げ記号単独指定 記号毎に 読上げる/読上げない
間の設定 10段階
 
@各種変数の宣言
  Dim Text as String ' 音声合成するテキスト
AOCXの初期化
   Form1.Smartalk1.Initiate
B 音量,等の属性を変更したい場合は,ここで変更,設定しなければデフォルトの値である。
   Form1.Smartalk1.Volume = 10
         :
         :
C 音声合成に関連するプロパティを設定,設定しなければデフォルトの値
   Form1.Smartalk1.DeviceID = 0
   Form1.Smartalk1.UseUserDic = True
D 音声合成メソッドに引き渡すパラメータを入力
   Text = "こんにちは"
E 音声合成メソッドを呼び出す
   Form1.Smartalk1.TextToDevSyn Text
F 終了します。
   Form1.Smartalk1.Terminate
 
 このプログラム例では,「こんにちは」と音声で読み上げることになる。本プログラムにおいては,画面のフォーム上に表示された文章を「読み上げ」ボタンをクリックすることにより読み上げるようにする。
 
2.3 現象のシミュレーションと変形状態の表示
 
 教科書などの実験結果においては,初期状態と最終結果を表現することはできても,時間の経過と共にどのような変化を示すかを表現することは不可能である。この点,シミュレーションや動画の導入によって可能となり,より効率的に現象を理解することが可能である。
 ここでは,引張試験における荷重−伸び曲線の動的表示と片持ちばりの変形状態について述べる。引張試験は材料の機械的性質を求める最も基本的な材料試験である。一定の変位速度で試験片に伸びを与え,そのときに必要であった荷重(材料の抵抗力)を連続的に求める。試験機は,負荷装置部,制御部およびデータ指示部からなる。ここでは,試験開始から試験片破断までのデータ表示部を画面に再現する。Formは,[RUN],[STOP]のコマンドボタン,荷重と伸びのデータをグラフィックで示すためのPictureBox,荷重と伸びの数値をリアルタイムで表示するTextBox等から構成されている。実験データ表示画面は,連続して破断まで表示するモードと代表的な現象が生ずるところで一時停止し,ポップアップ画面が表れ,このときの現象を解説する解説モードから成り,最初にモードを選択できるようになっている。さらに解説文章中で表れる専門用語を必要に応じてListBoxから選択し,説明を受けるサブ画面を有している。このサブ画面には,文章の他,写真,図面などが用意されている。
 次に,片持ちばりの応力分布と変形状態をビジュアルに示し,荷重を変化させて,応力分布の状態と変形の状態を確認できるプレゼンテーションの作成であるが,Fig.1に示すように,x方向にjmax個,y方向にimax個の長方形の要素に分割し,要素の最大応力が生ずる位置の応力を計算する。応力の値は9段階に区分し,これにカラーを対応させ,要素をカラーでPaintして表示し,要素の応力の大きさと応力分布が視覚的に理解できるようにする。集中荷重は,100Nから2400Nの間で,細かく変えることができ,その都度,画面を更新し,応力分布を表示できる。Form上に,グラフィックス用のPictureBox,荷重設定用のComboBox等を配置する。また,たわみの表示も同様な方法をとる。
 
        

Fig.1 片持ちばりの応力,たわみ計算モデルと座標系
 
 
3. プログラムの実行結果
 
3.1 テキストの表示
 
 Fig.2は,テキストを表示する部分である。スクロールバーにより全文を読むことができる。
 
 
Fig.2 テキストの表示画面

 
 
 
Fig.3 テキストの表示画面,数式の表示
 
 
 
Fig.4 テキストの表示画面,図面の表示
 
 Fig.3は,MIcrosoft数式エディターで作成され,Form上に貼り付けられた数式をテキスト中の図番号の行をクリックすることにより示したものである。Fig.4は同様に図面の場合である。
 音声読み上げについては,Textの文字変数にListBox内のテキストを代入し,次の音声読み上げコマンドを実行すればよい。
 
  Form1.Smartalk1.TextToDevSyn Text
 
3.2 引張試験のシミュレーションと変形状態の表示
 
 Fig.5に引張試験機の表示部の初期画面を示した。荷重と伸びのデータははディスプレイとグラフィックによって表示される。
 
 Fig.5 引張試験表示部の初期画面
 
 
Fig.6 解説モードにおける降伏現象の解説画面
 
 Fig.6は,解説モードの場合で,降伏点に達したとき,試験は一時停止し,自動的に降伏点に関する解説画面が表示され,さらに,テキスト中で下線を施された用語の一覧がListBox示され,項目を選択すると用語の説明ウインドウが表示される。
 Fig.7は,最終破断時の引張試験表示部で,Fig.8は,このときの解説画面である。Fig.9は用語の説明として「ディンプル」を選択し,写真を表示した場合の画面である。Fig.7の黒丸印に対応する現象の解説画面が準備されている。
 
 
Fig.7 試験片最終破断時の表示部の画面
 
 
Fig.8最終破断時の解説画面 
 
 
 
Fig.9ディンプルの電子顕微鏡写真
 
 Fig.10は片持ちばりの応力分布を表したもので,応力分布状態,最大応力が生ずる位置とその大きさが容易に理解できる。また,荷重PをListBoxから選択し,荷重の変化に対応した応力分布の状態の変化を視覚的に判断することが出来る。計算例では,はりの長さl=2000mm,高さh=60mm,幅b=15mmの矩形断面の場合である。
 
 
 
Fig.10 P=2000 Nの場合の応力分布
 
 Fig.11は,各要素におけるたわみを求め,はりの変形の様子を図示したものである。この場合も応力分布の場合と同様に,荷重Pを種々変えて変形状態の変化を視覚的に確認することができ,最大たわみも知ることが出来る。
 
           
Fig.11 はりのたわみ曲線の表示
 
4.まとめ
 
 学生が,講義を聴いた後,自宅などにおいてパソコン上で繰り返し復習し,効率的に理解でき,そして,講義よりも優れたプレゼンテーションを体験できる教材をCD-ROMのメディアで提供するため,現在まで,材料力学の教科書1)の内容をそっくりパソコン上に移植し,講義では提供できない動的な現象の変化等をプレゼンテーションできる教材のアプリケーション開発を進めてきた。
 テキストの音声読み上げについては,市販の音声読み上げOCXは,抑揚,文章の区切り箇所の解釈の点においてまだ完全なものではなく,この点を考慮してテキストを与える必要がある。開発したテキスト読み上げ部分は使用者の評価によるが,まだまだ改良の余地がある。練習問題を解かせ,適切なヒントを与える方法であるが,講義室で演習問題を解く場合には,教員のアドバイスを受けることができるが,このような点をパソコン上でどう実現するかが今後の課題である。
 
 
参考文献
 
1) 小山信次,鈴木幸三,はじめての材料力学,森北出版(1997).
 
以上の報告書は、1999年当時のものであるが、その後、動画像での表示、問題の解法の提示方法など開発してきたが、VB、OSが変わり、新しいバージョンのVB、OSで動作するか確認していないので実用化されていない。プログラムを作成する立場からすると、互換性を保証してくれる機能が新しいOSが備えてくれることを望んでいる。

*平成9年八戸工業大学エネルギー工学科、神部栄治、小渡規男君の卒業論文の一部です。
*平成10年八戸工業大学エネルギー工学科、小林弘明君の卒業論文の一部です。

*平成11年八戸工業大学エネルギー工学科、福井亮、小林弘明君の卒業論文の一部です。
 

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