材料の強度と破壊>金属の組織観察


金属の組織観察

■S15C炭素鋼の組織 熱処理により4つのフェライト結晶粒大きさ

A.平均フェライト結晶粒径17μm

B.平均フェライト結晶粒径44μm

C.平均フェライト結晶粒径62μm

D.平均フェライト結晶粒径144μm
                             
熱処理条件
 試験片 熱処理
フェライト結晶粒大きさ
ASTM No. D mm
A  950℃で2時間保持後、炉冷 8.9 0.017
B  1000℃で5時間保持後、炉冷 6.0 0.044
C  1000℃で5時間保持後、6.5℃/hrで冷却 5.0 0.062
D  1100℃で65時間保持後、6.5℃/hrで冷却 3.3 0.144
受入れ材  熱処理無し 9.1 0.016
  
S15Cの機械的性質
 
降伏応力(MPa) 引張強さ(MPa) 伸び(%) 断面収縮率(%)
268 422 30.2 63.1
 
 鉄と炭素0.15%の合金,炭素鋼S15Cの顕微鏡組織写真です。試料をサンドペーパーで磨き,アルミナ研磨剤を用いバフ研磨で鏡面仕上げした後,3%硝酸アルコールで腐食させ,金属顕微鏡に一眼レフカメラを取り付け,ミニコピーフィルムで撮影。私にとって,フィルム現像,暗室で印画紙現像の手順で撮影した初めての写真です。博士課程1年、昭和45年(1970年)頃のものです。結晶粒の大きさが,疲労特性にどのように影響するかを調べた実験に用いました。材料の強度実験の場合,試験片が準備できると大方の実験は終わったと思うくらい,試験片の準備に時間がかかります。
  
 
 A-Dの組織写真は,白い部分がフェライト結晶粒,黒い部分はパーライト組織で,拡大写真を右の写真に示します。白い部分は,炭素を0.02%しか含まない,比較的柔らかいフェライト組織,黒い部分は,鉄と炭素の化合物セメンタイトFe3Cで,強靱な強さを持っています。柔らかい材料と強靱な組織との層状組織がパーライト組織です。A〜Dの組織写真ではコントラストの関係でパーライト組織は黒くつぶれてしまっています。
 炭素量が増すとパーライト組織の部分が多くなり強度は増しますが,伸びは小さくなります。炭素量0.8%で,全組織がパーライト組織となり,この時の鋼が共析鋼で,強く,工具などの材料として使用されます。伸びの大きなフェライトと硬く,強度が高いセメンタイトが層状を成し,複合材のような構造を成しています。

パーライト組織
 
 結晶粒の大きさを変えるのは真空中で電気炉による熱処理をすることによって行います。炭素鋼の状態図でA3線以上の温度Tに加熱し,H時間保持後,冷却速度Vで冷却する操作を行い,H,TとVを変えて熱処理を行い,いろいろなサイズのフェライト結晶粒大きさを得ます。Dの結晶粒はかなりの時間(約2週間)をかけて結晶を大きくしています。
 
 金属材料の組織観
 
 金属の組織を観察するためには右記の@〜Cの研磨作業を行い,金属顕微鏡で観察することにより可能となります。現在は,自動研磨機などありますが,材料試験の前に,金属の組織を把握しておくことは絶対必要です。以下,この作業を解説します。私達の大学院時代は,このような作業の技術を習得することから実験が始まりました。材料の強さを研究する場合には,試験片の組織を観察する技術は欠かせない技術です。今まで調べた破壊事故の原因調査で、材料中の不純物や介在物の密集している箇所から疲労き裂が発生している場合が数多くありました。このような欠陥材料で強度実験をしても意味がありません。
  
 金属材料の組織観察のための研磨の手順

@ カッター,金鋸等による試料の切り出し,小さい場合は樹脂で固定
A エメリーペーパー(サンドペーパー)で研磨
B バフ研磨 ,鏡面仕上げ
C エッチング 腐食現象を利用し,金属の組織に応じた凹凸を表面に作る。
 *エメリー ペーパーの研磨剤は天然研磨剤のコランダム(Al2O3)と磁鉄鋼(Fe3O4)の混合系からなる鉱物です一般にサンドペーパー(#120等と表記している)と呼んでいるものは、人造の研磨剤、炭化珪素のものです。最近は余りエメリー ペーパーは見かけません。
 エメリーペーパー(サンドペーパー)は大きさの異なる砥粒,研磨粒子をペーパーに貼り付けたもので,番数が大きいほど,粒子の大きさは細かいペーパーとなる。このペーパーの上で試料を一定方向に往復運動させると表面は平均すると平滑になるが,砥粒によって削られ、動かした方向と平行に線状痕が残ることになる。従って,細かい砥粒のペーパーほど,線状痕の深さは浅くなる。
 
 
 
*手首をうまく使い、均一に力を加えて片よって研磨しないように注意しないと研磨面が傾き、焦点が合う範囲が狭くなります。
 

粗いペーパー

細かいペーパー

試料の研磨表面 
 例えば,#320番程度のエメリーペーパーで,カッター,金鋸等による試料の切り出し時に付いた傷を図のA方向に往復運動させて消す。研磨面には,A方向に平行な線状痕ができる。試料は水平に保つことが重要で,傾くと顕微鏡で観察するときに焦点が合う範囲が少なくなる。切り出し時の傷が完全に消えたら,次に細かい#400のエメリーペーパーの研磨に移る。
 #400のエメリーペーパーでの研磨は,#320のエメリーペーパーの線状痕に対して垂直方向(図でB方向)に研磨する。
 #320の線状痕は下図のように,次第に消えてゆき,研磨面がすべて#400の線状痕になるまで研磨を繰り返し,その後,次に細かいペーパーに移り,研磨方向を90度変えて,同じ操作を繰り返し,#1000かあるいは,さらに細かいエメリーペーパーまで研磨する。試料の切断面の状況、硬さ等で用意する研磨紙の種類は異なる。S15Cの場合は1Mか1Fから研磨を始めて、0, 2/0、3/0,4/0,5/0,6/0までペーパーで仕上げ、その後仕上げ研磨を行った。純鉄の場合は更に細かい耐水ペーパーまで研磨した。

  
 以前(20数年前)使用していたエメリーペーパーは、1F、1M、0、2/0、3/0、4/0、5/0、6/0の記号が記されていました。エメリーペーパーを扱っているメーカーでは#〇〇〇との粒度対応表を持っています。#〇〇〇との粒度の対応表がありましたが紛失しました。6/0まで研磨し、その後仕上げ研磨しました。純鉄などの柔らかい素材はそれ以上の細かい耐水ペーパー(#1000か#2000)まで研磨しました。柔らかい素材ほど研磨は難しく、時間のかかる作業になります。

@#320 の線状痕,C#400 の線状痕
 
バフ研磨 ,鏡面仕上げ

 
 仕上げ研磨は,回転円盤の上にバフ布(羅紗布)を張った研磨装置を使う。研磨剤として微粒子のアルミナを含む研磨液をバフ布に滴下させて,研磨面を回転円盤の上に軽く載せる。最後のエメリーペーパーの線状痕が回転方向と直角になるように置く。
 バフ研磨はアルミナなどの研磨剤により,線状痕の山の部分,凸の部分を削り取り,全く傷のない表面を得ることにある。結果的に鏡面となる。傷がないとき,光は反射してくるが,傷があるときは図のように光は別の方向に反射し,鏡のように像を結ばない。傷が無く,表面が平面であれば金属の場合は鏡面となる。
 慣れてくれば、研磨をはじめて、30分程度で鏡面に仕上げることが可能である。

バフ研磨

 アルミナの研磨液も砥粒のサイズが異なるものが発売されている。
 仕上げ研磨の時、線状痕が消えたかどうか判断するのは、初めのうちは大変ですが、研磨面に天井の蛍光灯を写して、試料を少し傾けると判断しやすい。


破線より下の部分を研磨剤で削り取る

*2〜3秒強く押しつけ、右下の図のように、傷底ぎりぎりまで一気に削る。その後は載せる程度の弱い力で研磨する。このようにして、山の部分を一気に研磨する。強く押しつける時間と力の大きさは、試料の材質にもよるので、経験を積むしかない。 
 
  鏡面      傷がある面の反射

光の反射


 
破線まで一気に研磨
エッチング

 金属は腐食する。結晶の成長は液体状態から,核が発生し,核から結晶格子が成長して結晶粒ができる。(b)のように,結晶境界には,不純物が残りやすい。
 
 金属の腐食は,金属表面に局部電池を形成することから生ずるが,形成する要因は,不純物、異相,表面が接している環境や湿度が場所によって異なる等である。結晶境界の不純物により,最初に,電池の極が形成されて,腐食液にさらされたときに電流が流れ,金属が溶け出す。
 
 腐食液は,金属によって異なる。この各部の腐食の度合いと腐食速度の相違をうまく利用して,金属の組織を凹凸として表す操作をエッチングという。ステンレスなどは電解研磨を行うのが一般的ですが、写真の程度でも良ければ王水でも可能です。
 
*王水 (濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合してできる液体)

 

 
(a)結晶の核の成長  (b) 結晶の成長


(c) 結晶粒
 
多結晶材料の場合の結晶の成長
 
エッチング溶液  
その他のエッチング液 文献1)
  
 エッチングは,腐食液(表)の中に数秒漬けて,取り出し,水で腐食液を流して腐食の進行を止める。アルコールに浸して乾燥機で乾燥させる。金属顕微鏡で覗いて腐食程度を確認し,不足ならばまた数秒腐食させる。長時間,腐食液につけると全面がひどく腐食されてしまい,組織は判別できなくなる。適度な腐食時間と腐食液の濃度が存在する。A〜Dの写真の例では,3%硝酸アルコールで15秒程度である。
 

 この作業は,腐食現象を利用している。普通金属の表面は,金属と酸素との化合物,酸化被膜に覆われて,空気中の湿分からある程度守られている。仕上げ研磨によりこの酸化被膜が取り除かれ,新しい面が露出しており,通常より腐食されやすい状況にある。この面に水滴を載せ,顕微鏡でのぞいていると錆が広がってゆくのがわかるくらい腐食速度は速い。バフ研磨の途中で,試料を濡れた状態で放置し,トイレから帰ってきたら赤さびになっていたこともある。錆や傷の無いきれいな鏡面を得るには新生面の腐食速度はかなり早いことを認識する必要がある。
 
 
 
   


ステンレス鋼,王水でエッチング
*この写真はステンレス鋼の腐食試験のとき、初期状態の表面がどのようになっているか確認したときの写真です。中央の穴はたまたま存在していたものです。孔食ではありません。
 

シャーレにエッチング液
 不定形、あるいは小型で磨きにくい試料は、図のような円筒形のガラス容器をガラス板に乗せ、樹脂を流し硬化させて、埋め込み、研磨する。以前は二液性のエポキシ系樹脂であったが、最近は、温度が上がらない、導電性があり走査型電子顕微鏡にそのまま使える等の埋め込み樹脂が発売されている。ガラス面にはワセリンなどの離形剤をあらかじめ塗布する。小型の試料は研磨面が大きくなり、平行面が得やすくなる。
 
金属顕微鏡による組織観察

 金属顕微鏡は,投光器から発せられた光をレンズを通し,金属の表面に当て,反射された光をレンズを通して接眼レンズに導く。光線に対して垂直な面では,光は反射して接眼レンズに入り,ライトの光の色(白色)になる。凹凸がある場合は,図のように反射光はレンズに入らず,接眼レンズに到達せず,黒く見える。金属顕微鏡で観察する場合は,鏡面と光線に対して垂直な面と組織に対応する凹凸があることが必要となる。鏡面仕上げとエッチングがこれに対応する。
 
 
  
 
光が接眼レンズに到達しないと黒くなる。
反射型光学顕微鏡
 
 生物顕微鏡などは試料に光を透過させる。細胞壁など光が通らない箇所やひずんで屈折率が変わる箇所は黒く見えることになる。光を電子に変えたものが電子顕微鏡で,電子の反射が原理となる走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)で,電子を透過させる原理の透過型電子顕微鏡(TEM: Transemission Electron Microscope)である。
 
 
走査型電子顕微鏡SEMの場合は,表面の凹凸を観察することになり,表面が導電性であればそのまま観察できる。プラスチックなど導電性でない場合は,金の薄膜で表面を蒸着して観察する。
 透過型電子顕微鏡TEMの場合は,電子が透過する厚さまで試験片を化学研磨する必要があるが,材料の内部や転位などを観察することができる。
 
 
      光が到達しないと黒くなる
         透過型光学顕微鏡
 
 ディジタルカメラが出現する前は,一眼レフカメラを金属顕微鏡に取り付け,カメラの絞りは焦点深度を深くするために絞り,投光器のライトの明るさを調整し,シャッタースピードはレリーズを使い、数秒解放で撮影した。最近はディジタルカメラから直接パソコンに取り込み画像をキャプチャーするので簡単になった。倍率は,1mmを100等分したマイクロスケールを撮影し,この長さを得たい倍率の長さに合わせて印画紙に焼き付けて実倍率を知った。
 
 写真は,当時,フィルム現像から暗室での印画紙焼き付けで、現在と比べるとかなり時間がかかったが,電子顕微鏡などの写真では,ディジタルでは得られない素晴らしい立体感のある画像を得ることが出来る。CDの音とレコードの音の差と同様である。
 
 平均フェライト結晶粒径の測定

 実際の倍率がわかっている写真の上に線を引く。線の上に乗っているフェライト結晶粒の個数を数える。線の両端の結晶は1/2に数える。
 図の場合は,4+1/2+1/2=5,線の長さLが60μmの場合,
 
    平均結晶粒径d=L/n=60/5=12μm

 最近は、ディジタルカメラやビデオカメラを顕微鏡に付け、モニターに写してこの計測ができるので便利になった。マイクロスケールを組織観察する倍率で、モニターに写し、透明なOHP用紙をディスプレイに乗せて、60μmの線を引き、これを結晶の画像に重ねて個数を数えればよい。

 
 
1) ギュンター・ベツォー著、松村源太郎訳、「金属エッチング技術」、アグネ.
 
*機械工学科時代の金属材料の実験テキストと研究室の卒業研究のための実験方法資料から抜粋したものです。
 
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