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複合材料の研究について

  従来の研究の多くが,ガラス短繊維(SGF:short glass fiber)含有率と機械的性質,疲労強度,き裂伝播挙動との関係に力点をおいている.この場合,多量の短繊維を含有した実用材料を用いているので,含まれる繊維が障害となって材料は不透明となり,試験片内部で起こっている事象を連続的に把握できないのが普通である.したがって,この場合,表面観察や,破壊後に得られる破面のSEM観察などを基に破壊機構を推定することになる. しかし,表面で起こっている現象は,応力状態の違いなどによって内部の現象とは異なるものと思われるので,表面観察だけでは,変形機構の理解には不十分と考えられる.
 そこで,試験片表面近傍ばかりでなく,内部にあるSGFを観察可能である透明な熱可塑性高分子,アクリロニトリルスチレン(AS),アクリル(PMMA),ポリカーボネイト材(PC)に極微少量のSGFを含んだ試験片を作成した.含有率が少ない複合材料では,複合則から予想されるように,複合化の効果は少なく,実用的ではない.しかし,透明であるため,試験片内部にあるSGFおよびその近傍の変形と破壊を連続的に観察できるという利点がある.
 本研究では、複合材料のき裂伝播速度に対する抵抗が小さく,強度の点でばらつきが多く,信頼性に欠ける原因として,繊維とマトリックスの剥離,接着破壊に着目し、変形過程でどのような様相を示し、変化してゆくか、詳細に調べた結果を示す。


引張変形の結果

AS材の引張変形

Fig.1 AS,PMMA材の応力−ひずみ曲線 Fig.2 AS材の応力−ひずみ曲線 温度の影響こうおんになるほど伸びが大きくなっている
Fig.3 SGF端からのクレイズ発生、AS材 SFig.4 GF端からのクレイズ発生、AS材
Fig.5 AS材の引張破面
小さい穴は繊維が抜けた跡,繊維を中心に広がっている平面はクレイズを示す。

Fig.6 PMMA材の引張破面
AS材と同様な疲労破面
 AS材とPMMA材の単調引張変形の様相と破壊機構はFig.7の模式図のように表すことができる.負荷方向に平行な試験片内部のSGF端部近傍からSGFと垂直にクレイズが発生し,負荷応力の増大とともにクレイズ長さが増し,円盤状き裂に成長する.隣接するSGFに発生した円盤状き裂が次々と合体することにより最終破断に導くき裂となる
Fig.7 AS,PMMA材の破壊機構

AS,PMMA材の破壊機構



PC材の引張変形


Fig.8 PC材の応力ーひずみ曲線 Fig.9 比較的短い繊維の場合、両端面からの剥離
Fig.10 比較的長い繊維の場合、繊維の破壊箇所からダイヤモンドき裂が発生
Fig.11 ダイヤモンドき裂の形状 Fig.12 剥離の様相
Fig.13 ダイヤモンドき裂が破壊起点 Fig.14 表面近くの剥離した繊維が破壊起点

 負荷方向と平行な短いSGFは最大応力の約60%程度の応力(負荷ひずみ約3.1%)で,両端部から剥離が生じ,負荷応力の増加とともに剥離長さを増す(Fig.9).負荷方向と平行な比較的長いSGFの場合,両端部の剥離が生じた後,約8%の負荷ひずみ(降伏ピークは約9.1%)で,繊維中央部にて破断し(Fig.10),破断したSGFの両端で剥離がさらに進み,空隙部分が負荷方向に拡大する.この部分にダイヤモンドき裂が発生する。
 
■PC材の引張破壊機構
 破壊開始箇所は,試験片角部である場合が多いが,試験片中央部表面近傍のSGF,側面部近傍のSGFが破壊起点になる場合も観察される.破壊起点は,表面直下近傍のSGFの剥離部あるいはダイヤモンドき裂である.破壊起点の様相をFig.8.15の模式図のように表すことができる.

PC材の引張破壊機構

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