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微少量のガラス短繊維を含む高分子材料の疲労変形特性

■ AS材 ,PMMA材の場合
 

 両材は同じような変形挙動を示した.応力振幅σaに依存した負荷繰り返し(破壊までの繰り返し数の数%)の後,試験片表面ばかりでなく内部にある負荷方向と平行なほとんどの繊維端近傍において,負荷方向と垂直なクレイズが発生,き裂化し,円盤状に拡大する.単調引張試験で生じたクレイズと同様なクレイズである.発生直後のクレイズは,直線状であるが,繰り返し数が経過するとともに負荷方向と垂直にその長さと厚さをを増し,円盤状に拡大する.円盤の面状には幾筋かの線状模様がSGFと垂直に生ずる.

Fig.1 AS材,PMMA材のS−N曲線
Fig.2 繰り返しとともに成長するクレイズ長さと繰り返し数の関係(σa=30MPa)
Fig.3 繊維端に発生したクレイズ 
AS材,σa=30MPa,Wf=1%
Fig.4 PMMA材,σa=30MPa,Wf=0.1%
Fig.5 疲労破面,クレイズから成長した疲労き裂、AS材,高応力振幅σa=30 MPaの場合
Fig.6 PMMA材,Wf=0.1%, σa=30MPa,Nf=692 Fig.7. AS,PMMA材の疲労破壊機構の模式図

 
 PMMA材の破面はAS材の場合と同様な傾向の破面である.
 以上からわかるように,室温では両材は同じような変形,破壊挙動を示し,応力振幅に依存した負荷繰り返し(破壊繰り返し数の数%)の後,試験片表面ばかりでなく内部にある負荷方向と平行なほとんどの繊維端近傍において,負荷方向と垂直なクレイズが発生,疲労き裂化し,円盤状に拡大する.高応力振幅では,別の繊維端から進展してきたき裂と合体し,最終破壊に至るという過程をとる.
 低応力振幅では,クレイズが発生するSGF数も少なく,クレイズ長さも小さいため,試験片角部近傍のSGFに発生したクレイズが疲労き裂化し,成長する.疲労き裂が自由表面に達した後,このき裂が最終破壊に導く疲労き裂に成長する.AS,PMMA材の疲労破壊機構は模式図Fig.7に示した.


PC材の場合の疲労破壊

 室温高応力振幅(σa=30MPa,Nf=28,189)の場合に,負荷方向と垂直な,傾いたおよび平行なSGFに着目し,繰り返しとともに変形がどのように生ずるか連続観察を行った. 疲労初期(繰り返し数N=50)において,ほとんどのSGFに剥離が生じた.負荷方向と平行なSGFの剥離の形態は単調引張、PC材の場合と同様である.以後の繰り返しとともに成長することはなく,最終破壊の原因とはならなかった.

 負荷方向と垂直なSGFと傾いたSGFの場合は,単調引張の場合と変形の様相が異なる.高応力振幅(σa=30MPa)においては,内部にある比較的短いSGFの両端から,SGF中心点に関して対称に剥離が発生し,SGF中心に向かって拡大し,この近傍に疲労損傷が繰り返し数とともに発達してゆく.この写真をFig.9に示す.剥離箇所の近傍にすでに黒い粒状の模様が発生しているのが観察される.

 繰り返し初期において,剥離発生後,SGFを取り巻くように粒状の模様がらせん状に発生し,繰り返し数とともに次第に大きくなっていく.繰り返し数が増すほど,繊維近傍から黒く見える部分が拡大し,模様が明確になり,羽のような形状になる様子が見られる.この羽の先端は黒く粒状に見える模様が拡がっている(Fig.12).

 Fig.13はこの羽状の2対の模様の断面形状を調べるため,SGFに対して垂直にせん断き裂の中央部を切断し,側面光によって,切断面の表面を観察した写真である.2本の直線が交差している箇所に見える小丸部が繊維の断面である.中央のSGFから引張軸に対して,45゚方向に成長した2本の線が見られる.すでにせん断き裂となった白い線状の部分とその先端から伸び,まだき裂化していないすじ状のすべり線部とに分けられる.これより,せん断き裂はすべり線ができた後で,その内部に多数のボイドが発生し,合体することによって形成されることがわかる.

 このように,負荷方向と45度方向に上向きなら上向きに,下向きなら下向きの対になって発生し,蝶番を上下向きに並べたような模様であることがわかる.以上の観察をもとに,この模様を蝶番型せん断き裂(HTSC;Hinge-Type Shear Crack)と呼ぶことにする.Fig.15にHTSCの観察例を示す.多数対の羽が上下に交互に成長している様子を知ることができる.本実験では,1〜5対の模様が観察された.せん断き裂は1対または2対(羽数2または4枚)のものがほとんどである.

Fig.8 PC材のS−N曲線 Fig.9 負荷方向と垂直なSGF(ガラス短繊維)
Fig.10 負荷方向と平行なSGFの剥離の形態 Fig.11 ガラス繊維端からクレイズ発生
低応力振幅( σa =15 MPa,Nf=260,126 cycle )の場合
N=107cycle       N=4,000cycle N=11,620 cycle        N=18,000 cycle
Fig.12 繰り返し数とともに成長する疲労損傷 Wf= 0.1% ,σa =30 MPa,Nf=28,189 cycle
Fig.13 せん断き裂の断面形状の観察方法
σa=30MPa、Wf=0.1%,負荷方向は水平
Fig.14 せん断き裂の断面形状、PC材
Fig.15 せん断き裂の観察例
Fig.16 PC材の疲労破面 Fig.17 ガラス繊維から発生した空孔状クレイズ
Fig.18 蝶番型せん断き裂(HTSC;Hinge-Type Shear Crack)   Fig.19 蝶番型せん断き裂の模式図
Fig.20 せん断き裂の立体形状と破面の対応例 Fig.21 PC材の疲労破面,σa=30MPa, Nf=123,401cycle,Wf=0.1%
(1) 高い応力では,負荷方向と垂直な試験片内部にあるSGFがマトリックスから完全に剥離し,SGF周りは円柱状の空間となっていること.
(2)

羽として成長した領域は微細なボイドからできていることが分かる.また,羽断 面を切断し観察した結果を参考にすると,羽は先端にまだボイドを余り含まない せん断帯をともなっているせん断き裂であることがわかるので,せん断き裂の立体形状をFig.18に示した.さらに、Fig.19のような模型で表すことができる. あわせて,図中の小丸部はボイドからなるせん断き裂,斜線部はせん断帯を示す.破壊の起点はこのせん断き裂である.

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